約 514,090 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/20.html
凪さん家の十兵衛さん 第二話<眼帯> 「あの、マスター」 「ん?どうした十兵衛?」 見ると少し顔が赤い…。 「なんといいますか…その、頭がぼーっとするんですが」 え、風邪か?最近の玩具はすごいな。やはりベッドとか必要なんだろうか。 「だ、大丈夫か?」 「はい、今のところは何とか」 むむ、しかしいつ病状が悪化するとも限らん。これはもうあいつしかいないな。 「よし、じゃああいつに見てもらおう」 「あ、はい…よろしくお願いします」 「ごめん!僕としたことがすまない!」 俺はいきなり謝られた。 「は?何だいきなり」 「うん、それがね…」 な、なんだ?一体俺の十兵衛に何があったというのだ。 せっかく治って自由になれたのにこれでお別れなんて無いよなぁ。 「…リミッターを設け忘れていたんだ」 へ?リミッター??なんだそれは? 「うん、十兵衛ちゃんに取り付けた左目が超高性能カメラアイなのは言ったよね」 「ああ、それがどうしたんだ?」 「このカメラアイはほんとに超高性能で、普通の神姫用カメラアイの十…いや、百倍も言いすぎじゃない。それくらいの性能なんだ。」 「そんなにすごいのか」 「普通のレーダーだけじゃなく、ヴァッフェみたいに外付けしなくてもソナーセンサー、サーマルセンサー、赤外線カメラ、衛星カメラ、スナイピングスコープなどなど、ほぼすべての種類のありとあらゆるカメラアイがひとつに集約されているんだ。でも…たぶんそのせいだろうね」 「???」 もうおにいさん何言ってるか分からないよ。 「簡単に言えば、見えすぎてAIに多大な負荷がかかっているんだ」 「見えすぎ?」 「リミッターを設けていないと、このカメラは常に内臓しているすべてのカメラをフルに稼動させてしまう」 はあ、さっぱり分からん。 「本来神姫用に作られた物じゃないから、十兵衛ちゃんに来るその情報量は半端無い。その処理のためにAIがフル活動。そのせいで各部に異常な発熱が起こってしまう。冷却も追いつかないほどにね。で、神姫用に調整する必要があるんだよ。それがリミッター」 「と、とにかくこのままじゃやばいんだろ?」 「うん、じゃあ早速…いいかな、十兵衛ちゃん」 「はい、よろしくお願いします」 「頼んだぜ」 「まかせて」 「お~い十兵衛~」 終わったのかな。 「起きて良いよ、十兵衛ちゃん」 終わったみたいだ。 目を開き、私の視野に光が差し込まれる。 「え、うわぁ…」 「ん?どうした!?おい!お前!大丈夫なんだろうな!」 「だ、大丈夫だよ!調整は完璧だよぉ!両目を完全に同期させたし、カメラを切り替えて任意に選択できるようにもしたし、通常状態のカメラ性能にリミッターも設けたし全身の各部に冷却ポイントを設けて最大稼働時のAIに対する負荷を最低限に抑えたし」 「じ、じゃあ一体…」 「あ、あの!」 「「どうした!!」」 マスターとそのご友人がすごい剣幕でこちらに顔を向ける。 「ふぇっ」 私驚きのあまり腰を抜かしてしまった。 「あ、わりぃ…びっくりしたか」 「ごめんよ。どうだい?目の調子は」 「は、はい!すごいです!」 私は感動していた。こんなに世界が綺麗に見えるなんて…。 実は今まで何を見ているのかよく分からないときがあった。人の形なんでけど全身赤かったり青かったり、さっきまで部屋の中にいたのに見えているのは家を上から見た図だったり。結構めちゃくちゃで何度も頭が混乱していた。 「ちゃんと見えます!マスターが!」 「お、おぉぉぉ!!」 「ほら、言っただろう?完璧だって」 「あぁ、ありがとうな!」 「うん、よかったよかった…と、そうだ」 「?」 「リミッターについて少し補足」 「あぁ」 「このリミッターは十兵衛ちゃんが望んだときに任意で解除できる。たとえば十倍までしか拡大出来なかった物がが百倍に拡大出来るようになったり…みたいな感じで能力を向上させることが出来るんだ。」 「う、うん」 「でもそれとともにAIの負荷も増大するから注意して。最大稼働で連続五分位かな」 「五分を越えると?」 「ん?まぁ本来は十分はいけるんだけど、あんまり無理させちゃうと駄目だし、一応五分って感じかな。ちなみに連続稼働時間が五分経つと強制冷却が始まるから」 「強制冷却?」 「そ、これは冷却ポイントの位置のせいもあるんだけど、装備していた全装備を強制排除してAIを冷却するんだ。これから君がどうするかは分からないけどバトルの際は注意して」 「わ、分かった」 「ま、十兵衛ちゃんなら結構いいとこまでいけると思うよ?」 「へ、へぇ」 「なんたって全部見えるんだからね。どこに隠れても無駄だろう、だって見えちゃうんだから。どんなに遠距離に相手がいても、十兵衛ちゃんには見えるから先手も取れるしね。少しづつリミッター解除を使っていけば強制冷却も無いし」 「それは強いな…」 「うん。それにね」 なんだかマスターにご友人が耳打ちしている。 一体何を話しているんだろう? 「な、なに!?」 「事実だよ。十兵衛ちゃんの戦闘スキルは最低でもA+だ。今言ったのは最も考えられる理由さ」 「お、お前…すごいな」 「え?私すごいんですか?」 「あぁ、すげぇよ…十兵衛…お前は最高だぁ!!」 「ど、どうしたんですかマスタぁ~」 マスターが私を抱き寄せすりすりしてくる。ちょっと、いや…かなり恥ずかしい。嬉しいですが。 そして頬ずりを止めると 「でも、俺は十兵衛を戦いに出す気は無い」 とまじめな顔をして言った。 「うん、言うと思ったよ」 とご友人。 「こいつは今まで十分すぎるほど戦ってきた。俺はこれ以上戦わせたくは無い」 え、私を心配してくださっているんですか? 「な、十兵衛」 「はい…」 「お前はどう思ってる?戦いたいか…戦いたくないか」 「あ、はい…確かに…もうあそこでの戦いはいやです。二度とあんな所には行きたくないです」 「そうか」 「で!でも!」 「ん?」 「本来の武装神姫の戦いはこの前のテレビで見たやつなんですよね?」 「あ、あぁ…」 「あれになら出てみたいんです」 「え」 「だって楽しそうだったから…その…。すいません、不謹慎ですよね…戦いが楽しそうだなんて」 「いや、そんなことはないさ。確かにあの戦いならはお前が体験してきたようなひどいのじゃないちゃんとした試合だし、確かに楽しそうだった」 「…はい」 「そだな…十兵衛がそういうなら考えようか」 「あ、有難うございます!」 「ふ、じゃあこれは僕からのプレゼントだよ」 「ん?何だこれは」 マスターと私はご友人が差し出したものを覗き見た。あ、これ…。 「ストラーフの初期装備セットだよ。君たちに進呈しよう。うまく使ってよ」 「お、おう、有難う…でもいいのか?」 「うん、余ってるやつだしね。とっておくのももったいないから」 「あ!有難うございます!!うれしいです!」 「ふふ、喜んでもらえて何よりさ。あ、あと…」 「「?」」 「紹介しよう。ミーシャ、おいで!」 「あ、そうか。お前ははじめて会うんだもんな」 「え?」 扉が開く。と一体の武装神姫が入ってきた…天使型だ。 「お久しぶりです」 「あぁ、元気だった?」 「はい、この通りです」 「ミーシャ、彼女が新しい君の友達だよ」 「はじめまして、私はミーシャです。よろしくね」 え、あ…。 「ほら、挨拶挨拶」 「あ、はい!は、はじめまして…じ、十兵衛です」 「十兵衛ちゃんね、よろしくっ」 「あ、は、はい!よろしくお願いします!」 「あ、ご主人様」 「ん?なんだい?」 「そろそろ仕事の支度を…」 「あ、これは失礼、遅れちゃうね」 「もうそんな時間か。悪いな」 時刻は朝六時半を回っていた。 「いやいや、良いってもんさ。そうだミーシャ」 「はい」 「彼と十兵衛ちゃんにバトルの登録方法を教えてやってくれないかな。頼んだよ」 「了解しました、ご主人様」 「よ、よろしくお願いします」 「よろしくな、ミーシャ」 「はい、何なりと」 「じ、じゃ行って来るよ!悪いけど鍵は任せるよ!」 「あ、あぁ行って来い」 「いってらっしゃいませご主人様」 「有難うございました!」 そうして長い一日がまた始まったのです。 第三話も読む
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2102.html
ウサギのナミダ ACT 1-1 □ 廃墟の街に砂塵が吹き抜ける。 裏通りの路地にも、砂埃がたまっており、黒い影が高速で走り抜けると、砂煙で路地はいっぱいになる。 駆け抜ける黒い影は、少女。 愛らしい顔立ちに、バニーガールを思わせるボディカラー。さらに黒光りする、ごつい機械の両足が不釣り合いだ。 彼女は、俺の武装神姫。 廃墟の路地を、機械の両足首に装備されたランドスピナーで疾駆する。 これが彼女のメイン武装。陸上での機動性に特化した脚部パーツである。 彼女は細い路地裏を駆け抜けながら、メインストリートをうかがう。 朱色のエアバイクが一台、爆走を続けている。 「よくアレを振り回すな」 半分感心、半分あきれた口調で、俺はつぶやいた。 あのエアバイク「ファスト・オーガ」は公式装備であるが、バトルで好んで使用する神姫はあまりいない。 地上での高速機動には適しているが、取り回しがしづらく、接近戦には向かない。空中戦も、飛行タイプの装備と比べると能力は数段劣る。 戦闘機動においては中途半端なのだ。特に武装神姫のバトルにおいては。 しかも、高速域に達するようなレーシングタイプに組み替えてある。 あれでは操作系も相当にじゃじゃ馬なはずだ。 それでも、ファスト・オーガを使いこなそうというのは、よほどの物好きなのか……。 俺は、対戦筐体の向こう側でエキサイトしている、相手のマスターを見た。 派手に染めた髪に、革ジャン、銀のアクセサリーをこれでもかと身につけた、いかにもヤンキーと言った感じのあんちゃんである。 きっとバイクが好きなのだろう。 そういえば、この店の外にも派手なバイクが止まっていた。いかにも相手のマスターが乗り回してそうなやつだ。 そんなことを考えながら、エアバイクに仕掛けるタイミングを探る。 少し耳からずれた、片耳用ワイヤレスヘッドセットをつまんで、位置をなおしながら、俺は指示を出した。 「ティア、次のT字路。ビルの上からジャンプして、直上から撃て。そのあとは背後から追撃」 『はいっ!』 はきはきとした声が短く応答する。 ティアは直後に軽く地を蹴ると、そのまま朽ちたビルの壁面を斜め上に走る。 そのまま、交差点の角にあるビルの屋上に躍り出る。 ◆ 「やべえ、やべえ、やべえやべえっ!!」 エアバイク「ファスト・オーガ」に乗る、ティグリース・タイプの神姫は、悪態を風に流しながら逃走していた。 こんなのは想定外だ。 バトルを始めてこれまでに五戦五勝。 いずれも、相手の神姫を追いかけ回し、背後から重火器で撃ちまくって勝利してきた。 図体の大きなファスト・オーガであるが、マスターの教えてくれたライディングを駆使すれば、思った以上の小回りを発揮できる。 巨体に目を奪われて、動きが鈍いと判断した浅はかな相手こそは格好の獲物だった。 彼女に言わせれば、飛行型のアーンヴァルやエウクランテの方が、ターンするのが鈍い。大きな弧を描いてターンしてくる相手を、様々なバイクのターン技でかわして背後をとる。 そして、重くなるのもかまわずに「これでもか」と積んだ武装を撃ちまくる。 あなどった相手を手玉に取る、最高に気分がいい必勝パターンだった。 接近戦メインの猫型や武士型はもっと簡単だ。全開で走り回って撃ちまくれば、それだけで勝てる。 今日の相手も、そういう楽でおいしい相手だと思っていた。 『虎実』 「アニキ!」 彼女は自分マスターをこう呼んでいる。 「アニキ、話が違うじゃねぇか! 今回もラクショーとか言ってなかったか!?」 『文句垂れてんじゃねーよ。武装じゃこっちが勝ってるんだ。文句言う前にあのバニーガールに当ててみやがれ』 バニーガールのところで声が甘くなった。 アタシというものがありながら、ケシカランことを考えていたに違いない。 虎実は不機嫌をさらにまき散らす。 「マトが小さくて、あったんねーんだよ! なんかいい手はねーのか、バカアニキ!!」 『ふむ……なら、誘い込んでやるか』 「なんか手があるのか?」 『こういうのはどうだ……』 虎実のマスターは、声を潜めて策を授けた。 それを聞いて、虎実はニヤリと笑う。 アニキはバカでエロで喧嘩っ早いが、ことバイクを使っての勝負になると悪知恵が働く。 虎実がアニキを一番気に入っているところだ。 「いい手だね」 『あのちょろちょろうるさいウサギちゃんに一発かましてやれ』 「よっしゃぁ!」 虎実はさらにアクセルを踏み込んだ。 先はT字路。 狂ったようなスピードで、朽ちたビルの壁が迫り来る。 虎実は、最小限のブレーキングをかけると、エアバイクの左舷から身を乗り出した。 ハングオンで美しい弧を描き、ハイスピードのまま左折した。 瞬間、左手のビルの上から、小さな影が虎実の上に出現した。 「来たな……」 小さな敵影を確認すると、虎実は猛然とアクセルをふかす。 ■ わたしがビルの屋上から飛び出したとき、エアバイクはちょうど左折したところで、真下に来ていた。 対戦相手の神姫は、虎実さん、という名前だったか……が見上げていたところから、ある程度奇襲を予測していたようだ。 わたしは空中で狙いをつけ、両手に持ったサブマシンガンの引き金を絞る。 サブマシンガンが火を噴くのと同時、エアバイクがさらに加速する。 はたして地面に弾着し、小さな砂埃を上げた。 その砂埃を踏みしめるように、着地。膝のクッションで衝撃を殺して、その反発を利用して、上体を前に出す。 一気に加速、虎実さんの追跡を開始する。 エアバイクは、道幅の広いメインストリートを猛スピードで駈けてゆく。 次第に小さくなるエアバイクに追いすがるため、わたしは全力滑走した。 重心を身体の前に出した軸足に乗せ、反対のけり足で自分の後方の地面を蹴る。上体は前傾姿勢。腕は左右に大きく振る。 スピードスケートの選手と同様のフォームだ。 左右の足が地面を蹴る度に、軸足のホイールが回転数を上げ、加速する。 エアバイクとの差は徐々に詰まってきた。 ライダーの虎実さんが、ちらりとこちらを振り返る。 さらに差が詰まった。 サブマシンガンの射程には十分な距離。 わたしは走りながら、右手のマシンガンを構え、撃った。 ファスト・オーガがひらりと横滑りして、銃撃を回避。車体をストリートの右側に寄せる。 相手の左翼にスペースが出来る。一気に追いつくチャンス。 わたしはさらに加速し、そのスペースへと飛び込もうとした。 その時。 わたしの瞳に、不適に笑う虎実さんの顔が映った。 確信のある笑い。 虎実さんがファスト・オーガを一瞬だけ加速した。 少し前に出ると、なんと機首を持ち上げ、後方のフローティングユニットを中心にして、駒のように回転する! 「ふきとべええええええええ!!」 ファスト・オーガの機首部分が金属バットのごとく振り出されてくる。 虎実さんに並ぼうと加速していたわたしは、進路を変えることができない。 ファスト・オーガの大きな機首部分が、ものすごい勢いで、わたしの眼前に迫った。 □ まったくもって、無理矢理な力技である。 まさか、エアバイクをウィリーさせて、前方部分で吹っ飛ばそうとは。 思いもかけない接近戦の奇襲に、俺も肝を冷やした。 ティアは速度を落とすも、勢い余ってエアバイクの攻撃に吸い込まれていく。 二つの影が交差する。 しかし、ティアは、虎実の一撃をすり抜けた。 接地しているホイールをグリップさせながら、身体を地面すれすれまで倒しこむ。 スキーで言うビッテリーターンの要領だ。 ウィリーしていたファスト・オーガは、ティアの身体の上を通り過ぎる。 「ちょ……まっ!」 相手の神姫、ティグリースの虎実があわてた声を出す。 彼女にとっては起死回生、必中の一撃だったのだろう。 エアバイクの前部を持ち上げたまま、その場で勢いよく駒のように回りだした。 チャンスである。 指先はサイドボードのコントロールパネルを操作し、俺が望んだ武器を、バーチャル空間内のティアの手元に送り込む。 「ティア」 『はいっ』 同時に短く指示を下す。 「そいつをエアバイクの底面に向けて撃て」 ティアは即座に指示を実行する。 ティアの右手には、大きなハンドガンが握られている。 ただのハンドガンではない。先端に大きな弾頭があり、グリップからはストックも延びている。 ロケットランチャーガン。 装弾数は一発きりだが、威力は破格である。 機動性重視のティアにとっては、虎の子の一発だ。 ティアはランチャーガンを構えると、数瞬を待たずに引き金を絞った。 ファスト・オーガがウィリーターンしていたのも、ほんの数回転だったろう。 虎実がファスト・オーガを押さえ込むよりも早く、まっすぐな白煙を描いた弾頭は、その前方部の底面に直撃した。 『うわ、うわわわわぁっ!!』 虎実が素っ頓狂な声を上げる。 前方部をはじかれたエアバイクは、後部を支点に反転。 そのままひっくりかえった。 俺が思い描いたとおり。作戦は成功した。 命中を確認したティアは、実弾のなくなったロケットランチャーガンを捨てる。 俺はすぐに新しい武器をティアに送り込んでやる。 ティアはランドスピナーでゆっくりと滑走すると、転覆しているファスト・オーガの反対側に回り込んだ。 ◆ ひっくりかえったファスト・オーガから、いままさに虎実が這いだしてこようとしていた。 「くっそ……」 まさか、あの一撃をかわされるとは思わなかった。 奴の速度も乗っていたし、コースも予想通り。ファスト・オーガを回転させたときに視認したティアは、間違いなく直撃コースだった。 しかし、姿がかき消え、予想していた衝撃は来なかった。 ティアを吹き飛ばした衝撃を利用してブレーキをかけるつもりだったために、勢い余って駒のように回ってしまったのだ。 そして、その隙をつかれ、このありさまだった。 虎実はバイクから這い出そうと力を込める。 バイクはもう使い物にならないだろう。だが武装は健在だ。ありったけの武装を引っ張りだして、それから…… 考えている最中の虎実の前で、甲高いホイール音が停止する。 虎実は顔を上げる。 目の前に、ちょっとすまなそうな顔をした、黒い兎がいた。 「チェックメイトです……」 ちょっと申し訳なさそうに、バニーガールの格好をした神姫が告げる。 虎実は不機嫌になりながら思う。 なんでこいつは、こんなに自信なさげなんだ? 両手でサブマシンガン構えながら言う口調じゃねぇだろ。 虎実はティアを侮ることにした。 無駄なあがきとわかっちゃいるが、こんな奴に素直に降参するほど、虎実はおとなしくもない。 「そうか……」 虎実はちょっとうつむいて表情を隠す。 端からは、さもギブアップしそうに見えるだろう。 「しかたがない……なっ!!」 車体の下に差し入れていた右手。 最後の一文字を口から発すると同時、掴んでいた剣を地面スレスレに滑らせた。 自慢のレッグパーツをねらう。 しかし。 虎実の剣が届くより早く、ティアの両手のマシンガンが火を噴いた。 虎実の繰り出した剣は、柄の根本から破壊された。 地面に穴をうがち、バイクに風穴をあけ、弾着が点線を描き出す。 虎実は小さな悲鳴を上げて、頭を抱えた。 弾着の点線は虎実の身体を囲うように円を描いていた。 ティアが静かに告げる。 「降参してください……」 またしても申し訳なさそうな顔をしている。 それが虎実には無性に気に食わなかった。 でも、それをどうにかする術はない。 ティアの銃口はぴたりと虎実向けられている。 「ちくしょ……ちくしょう、ちくしょーーーーーっ!!」 虎実の叫びが廃墟の彼方に消えていく。 やがて、ファンファーレとともに、フィールド上に巨大な立体文字の列が浮かび上がった。 『WINNER:ティア』 ■ バーチャルバトルが終了し、周囲の廃墟が消えていく。 わたしの認識はリアルに戻され、ゆっくりと目を開く。 暗く、狭いポッドの中。 こわい、と認識するまもなく、目の前の壁に一筋の光の線が引かれ、やがて大きく開いた。 溢れてくる光。現実の光。 わたしは目を細めながら、ゆっくりとポッドから身を乗り出して振り向く。 「か、勝ちました。マスター」 わたしは自らの主の姿を見上げた。 どんな表情をしているのか、とてもとても気になる。 彼は、やっぱりいつものように事務的な無表情で、自分のモバイルPCのキーを叩いている。 わたしはちょっとだけ落胆する。 でも、 「うん。よくやった」 マスターがわたしを見て、かすかに笑ってくれたから。 わたしは嬉しくなって、思わず笑みを返した。 わたしのマスターは、あまり表情を変えない人だ。 だから、時々見せてくれる笑顔は、わたしの大切な宝物だった。 その時だ。 「おいおいっ! 今のは反則じゃねえのか!?」 大きな声でマスターに近づいて来る人がいる。 バトルの相手、ティグリース・タイプのマスターだ。 「なにがだ」 マスターの声は至って冷静……それどころか、わたしが身をすくませたほどに冷たい声。 「だってそうだろ! そっちのバニーちゃんの装備なんざ、見たことも聞いたこともねぇ! しかも、バトル前にフィールドまで指定しやがって……。 勝つためには何をしてもいいってのか!? あぁ!?」 「はじめに確認を取ったはずだ。君はそれを了承しただろ」 確かにマスターは、バトル前に確認をしている。 わたしは武装の特性上、市街地や廃墟のステージでしかバトルしない。 それは有利になるからというよりも、他のステージではパフォーマンスを発揮出来ないからだった。 「だけど、てめえの神姫の武装は公式じゃねえだろが!」 「確かに、ティアの武装はオリジナルだ。 だが、君の神姫の武装に勝っているとは思えない。 こっちはライトアーマー並みの軽量武装で、装備は手持ち武器をサイドボードから送り込んでいるだけだ。 単純な火力は君達の方が圧倒的だと思うけどね」 「ぐっ……」 マスターは冷たい視線で相手を見る。 体の大きな相手のマスターがあきらかにひるんでいる。 マスターは淡々と言葉を紡ぐ。 「それに、ここは公式の神姫センターじゃない。 ゲームセンターの非公式の草バトルだ。 パーツがオリジナルだろうが、武装が非公式だろうが、どんな相手が出てきたって文句は言えない。 ここにはそういう神姫が集まっている。 公式装備のバトルがしたければ、神姫センターに行けばいい」 マスターの言葉は冷たく、事務的で、しかも正論だった。 会話を聞いていた、周りの神姫マスターのみなさんも、口々に言う。 「そうだそうだ! ここじゃ武装は何でもありだ!」 「公式武装バトルがお望みなら、他へ行け!」 「負けたからって見苦しいぞ!」 「だいたい、火力で勝っているのに、いいわけがましいったらないよな」 「文句言うより、装備見直す方が先なんじゃね?」 そして、マスターがとどめの一言。 「それに、いまのバトルは、君から申し込んできたんだろ」 その一言に、周りがどよめいた。 相手のマスターは反論も出来ずに、うつむいている。 けれど、いきなり顔を上げると、びしっとわたしのマスターに人差し指を突きつけた。 肩の上のティグリースも一緒に。 「こ、これで勝ったと思うなよ! おぼえてろおおおおおぉぉ!!」 そう言い捨てて、相手のマスターは駆け足でお店を出ていった。 マスターを見上げると、彼は肩をすくめて軽くため息をついた。 「まったく、うるさいやつだったな……心配するな」 最後の一言でわたしを見て、マスターは右手を差し出した。 後かたづけが終わった証拠。 わたしはマスターの右手の甲に乗る。 すると、マスターの右手はわたしを乗せて、左胸のシャツのポケットに到着する。 わたしは右手から降りて、マスターの胸ポケットに滑り込んだ。 ここはわたしの定位置。 「よし、帰ろう」 ゲームセンターの、武装神姫コーナーの周りは、さっきの騒ぎの名残で、まだざわめいていた。 マスターはそれが気に入らないのだと思う。 他のバトルを観戦もせず、すり抜けるようにコーナーを離れ、店を後にした。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/674.html
第五幕。上幕。 ・・・。 新京都国際会館大ホール。薄暗い照明、設置された数台の大型筐体。 交差する小さな影を見つめる瞳。 筐体のカップホルダー。そこに描かれたMBAというオフィシャルロゴの上。 無造作に置かれたレモンイエローのケータイには大小様々なストラップが賑やかに吊るされている。 そのプレイヤーシートに座る少女。染色された髪の前髪の一部にホワイトメッシュ。細い赤縁の洒落た眼鏡。インカムを付けている耳には右には2つ、左に1つ賑やかにピアスが踊る。 その筐体の中・・・アラートウィンドウと光が踊る戦場を見つめる横顔は、軽薄そうにも見えるが、その視線は真剣そのもの。その瞳には少しの不安と自信が宿るが、絆創膏が貼られた両手を祈るように組んで、彼女はそこをじっと見続けていた。 彼女の名は山県 光。アキと読む。 やがて。 砲台型神姫フォートブラッグが携えた、大きく形状を改造されたライフルの銃弾が悪魔型ストラーフの胸部急所に直撃した。 ドクロのマークのデッドマークが赤く表示され、悔しそうな顔を浮かべながらストラーフが膝をつく。勝利を収めたフォートブラッグはバイザーを上げ、特別感慨も無さそうに・・・それが当然と言うかのように敵であった者に一瞥をくれると。自身のバトルフィールドへの侵入ゲートへ足を向けた。 『バトルロンドエンド。勝者、フォートブラッグ『ルクス』。OFMBA・・・勝敗数・・・』 電子音声と、その戦いのギャラリーであった『ライバル達』の拍手が流れる中。 そのフォートブラッグ『ルクス』は、白と黒だけで彩られた世界を見回した。 いつも通りの視界。ノイズが少し混じっているままで。 「お疲れ様。ナイスやったで、ルクス!」 関西弁が強く混じった声。嬉しそうに、アキが自分のパートナーを迎える。 「・・・ありがとうございます」 そのマスターの祝福に顔さえ上げず、腕を組み。淡々と答えるルクス。 今の戦いに満足してはいないのか、目を軽く閉じ瞑想しているかのように口はそのまま噤まれた。その喜びを表現しようともしない姿に、困ったような笑みを浮かべながら、アキが慌てて付け加える。 「あ・・・うん。どっか、壊れたとか。調子の悪いトコとか無い?」 「マスター。異常ありません」 さらっと答え、ルクスは心配そうな彼女の声を無視する。 まだ何かを言おうとしたアキだが、先のストラーフのマスターが来て、挨拶と祝福への礼を言う事に追われ、それ以上の声をかける事は出来なかった。 自分は武装神姫である。 マスターと自分の誇りの為に戦い、勝利を収める為の存在。 特にフォートブラッグは本格的なショットバトルの為に設計された『砲台型』。主とは完全にバトルパートナーとして在るべきだと、彼女は『正しく認識』していた。 主が戦略を練り、自身が戦術で勝利を収める。それこそが正しい姿である。幸いにもアキは戦略という点では問題は無い。ならば自分にはそれに答える義務がある。 そこに間違いなど・・・。 それから一時間後。これで勝てばベスト4という試合が始まった。敵はアーンヴァルタイプ限定型のカスタムモデル・・・それも随分と神戸で名の知れた実力者。 しかし此処で負けているわけにはいかない。 その戦闘の途中。 彼女は一瞬、丘陵の段差に足を取られた。 ほんのワンミスでしかない。 しかし、この戦場には、『ここまで勝ち上がってきた者』しかフィールド内にはいないのだ。それを見逃すはずもないアーンヴァルのアルヴォが火を噴き、彼女のバイザーを跳ね上げた。幸い、直撃ではなかったが・・・。 「・・・っ!」 ヂヂッという音と共に、目の前に妙な火花が舞った。いや、目の中で舞った。 視界が急速な勢いで萎み、これまでの三分の一程度まで縮小する。ダメージアラートが表示されているはずだが、それを完全に見る事が出来ない。 (ダメージ数の把握が・・・!) 見えなくなりつつある事よりも、彼女は戦闘に支障をきたす事を悔やんだ。残った視界にも大きなノイズが走っている。最早、視界のほとんどが奪われつつる状況。それでもルクスは敵をスコープに入れようとする。 (負けるわけには!) が、目が見えない重砲撃タイプなど単なる的に過ぎない。 数秒後に放たれたレーザーライフルを回避する事が出来ず、ルクスは直撃をくらった。全身から力が抜けていく。高いブザー音と共に、彼女のボディに敗北を意味するドクロが舞った。 あちこちにガツ、ゴツとぶつかりながらも、何とかルクスはゲートに辿り着いて筐体から出る。火花はまだ目の中で散っていた。 「ルクス!?」 慌てたような声が聞こえる。そこにいるのだろう。 彼女はいつも通り、視線を主に向けずに首を振った。 「申し訳ございません、マスター。私のミスで敗北しました。弁明の言葉もありません」 「そんなんはえぇねん! それより・・・大丈夫なんか!?」 何が、いいのか・・・。 オフィシャル・プロを目指しているような方が。 「異常といえば、視力が奪われました」 恥だ。主の構想を裏切り、自身のミスで負けただけではなく。挙句故障とは。何という役立たずな・・・。 そこまで思った時には。アキはルクスを引っ掴み、メディックルームに走っていた。 「・・・ありがとう、ございました」 搬送された神姫センターから、暗い表情でアキがルクスを胸に抱いて出てくる。 「・・・」 結果は・・・『ノー』だった。 そもそもが、彼女の人工眼球が、武装神姫の物ではなかったという衝撃の事実付きで。 パーツの混入・・・数百分の一か、数千か、数万か。何が起きたかは解らないが、しかし確かに起こりえた。彼女の眼は旧型神姫タイプ『ミネルヴァ』の不良品であったのだ。 武装神姫のカメラアイ部は、従来の神姫よりもガードグラスが遥かに丈夫に出来ており、それ故に人工眼球とCSCセンサーとの結合も強固になっている。ルクスが・・・生まれながらに持っていた障害をアキに伝えていれば、その時点での良品への変更は可能であっただろうと。 彼女は当初から視界が色を認識していなかった。 だが、ルクスは別段それを主であるアキに言おうともしなかったし、不便とも感じなかったのだ。全てはバトルに、戦闘に・・・必要ないからと。 その『悪い眼』でずっと暮らし、戦ってきたルクスのCSCが既に『その規格の眼球』を自身の目とする認識を、終了してしまっていた。 新品の武装神姫の眼の規格では、彼女のCSCがデータを認識しない。 とはいえ『悪い眼』と同じ程度の格である『旧式の眼』はほとんどがハンドメイドの代物だ。色も違えば、一つ一つが微妙にセッティングが違い、合う物が見つかる可能性は限りなく低いと・・・そう、伝えられた。 「・・・なんで、言わんかったん?」 合う物が見つかれば、連絡をくれると気の毒そうにドクターは言ってくれたが。期待は出来ない。 アキの言葉に、抱かれたルクスは俯いたまま何も言わなかった。 「なんで・・・色が見えないって、言わなかったん? ルクス」 もう一度。それでもどこまでも優しく、アキは言う。それが妙に苛立たしく感じられ、ルクスは僅かながら乱暴に答えた。 「必要ないと判断しました。バトルに影響はなく。むしろ、色の彩度に目を取られないだけ便利であろうと」 酷くなっていくノイズは。既に視界のほとんどを奪っている。 「そっか・・・ごめんな・・・気付かへんで」 ポツポツと聞こえる声。何故謝るのか。全ての非は私にある。 「マスターは悪くありません。状態管理・報告の義務さえ怠った、私の責任です」 「ウチは、マスターやのに・・・」 聞こえていないのか、アキは尚も呟くように言うだけだ。 ルクスは溜息をつき、淡々と言った。 「・・・マスター」 「?」 「私のCSC破棄を提案致します」 ぴたっと、足が止まった。 「え・・・?」 アキの顔さえ見ずに、ルクスは続ける。 「マスターはオフィシャル・プロを目指し、それに近い場所にいらっしゃいます。状態管理を損ない、無様にも・・・恐らくは視力を失うような神姫では貴女への期待と、高いステータスに答える働きは出来ません」 それが当然だ。 「CSCを一度破棄し、新しい眼球に取替え、そして再度起動を行ってください。名はルクスでも構わないでしょう。同一ボディとヘッドパーツならば特例としてランキング継承が認められた例があります」 私は彼女の神姫・・・所有物であり、期待に答える義務があった。 それが出来ない愚かな存在が、これ以上、類稀なる才能を持つ方の側にいる訳にはいかない。 「何・・・言って」 アキの震える声。ルクスは首を振って溜息混じりにはっきりと言った。 (・・・何を感傷的になっておられますか) 「私と貴女はパートナー。片方が『裏切り』に近い行為を行った時、貴女には切り捨てる権利があり、私にはソレを受け入れる義務がある。今日とて勝てば、日本選手権への切符を手に入れることが出来たベスト4入りを逃したのは、私の責任です」 「『裏切り』・・・?」 「何よりも、マスターはフォートブラッグの戦い方・セッティングに慣れておられるでしょうし・・・」 そこまで言って、決定的に重要な事を言う。 「CSCと眼球のみでしたら、『コスト』も、抑えられますから」 「『裏切り』・・・? 『コスト』!?」 少し、語気が強められた。 「?」 「この・・・っ! ド阿呆おっ!!」 水がパタパタッとバイザーに降ってきた。きょとんとして、ルクスは見えなくなりつつある目を上に向けた。 白黒の、小さな視界に。泣いているアキがいた。 (・・・ぁ) そういえば・・・。 「ウチはルクスじゃないと意味がない! ルクスの代わりなんておらん!」 「代わりは・・・」 私は、武装神姫。大量に生産されているタイプ。代わりなんて。 「ルクスが、好きやから! 一緒に来たのに! 裏切りなんてありえへん!! ルクスはルクスやのに、何でそんな事言うん!?」 大粒の涙が眼鏡を濡らし、首を振った時に零れ落ちる。 (・・・好き?) 泣きながら叫ぶアキを呆然と見つめながら、言葉を反芻する。 そういえば・・・マスターの顔を正面から見たのは、はじめてだったっけ・・・。 紫電が舞った。耳に届くブチッという音と共に。 視界から光が、完全に失われた。 ・・・一週間後。 昨夜、『データ規格に一致するかもしれない』眼があると電話があり、そこに連絡を入れるや平日にも関わらず、アキはルクスを連れて早朝からリニアエクスプレスに飛び乗った。 新京都駅からの通勤の人たちに混じって揺られる事一時間と少し。中央ステーションからバスに乗り換えて。 そして。彼女達はそこに降り立った。 「きょう、こく・・・?」 この一週間。泣き腫らした目でアキは、その珍しい名前をした研究所の看板を読む。ルクスは無言で俯き、そのポシェットの中で座っている。 千葉峡国神姫研究所。それなりに大型の研究所らしい。 意を決して。彼女は呼び鈴を鳴らした。 この一週間。 ルクスは一人暮らしをしているアキの部屋、机の上。言葉さえ発せず、クレイドルの上にずっと座っていた。座らされていたし、そこから動こうともしなかった。 毎朝、声をかけながらアキは優しくルクスの身体を払う。 「ごめんな・・・ごめんな?」 そう謝りながら・・・学校には行っているか解らない。 時折、机に突っ伏しているのか、くぐもった涙交じりの声が近くから聞こえるだけで。 ただ。 ルクスは、何か一つのキーワードを探し続けていた。 この、胸を蹂躙する気持ちを、はっきりとさせるワードが。あるはずなのに。 「・・・。結論から言えば。移植は可能です。それで光が戻るかは確信はありませんが・・・確率的には半々と言った所でしょうか」 様々な機械でデータを取り、その後所長室に通されたアキとルクス。 その前に座った、堅苦しそうな雰囲気を漂わせる小幡 紗枝と名乗った初老の女性は、手元のデータファイルに目を通しながら事務的な口調で言った。 「半、々・・・」 アキはぽつっと呟いて。 「あの、それで・・・」 「無論。一人でも多くの神姫と、そのマスターをお救いするのが私達の使命でもあります。お譲り致しましょう。・・・治療費は、別途頂くかもしれませんが」 「ホンマですか?」 嬉しそうに言うアキに、しかし小幡は冷静・・・冷徹とも見える表情のまま一つ頷くと、机上に直立するルクスに視線を向けた。 「さて、ルクスさん。貴女に聞いておきたい事があります」 ルクスは顔を声のする方向へ向ける。 「視力を失う前兆は当初からあったとの事ですが・・・何故、貴女は。色彩を認識していない旨をマスターに伝えなかったのですか?」 ふっと顔を下を向けたまま、答える事が出来ない。彼女は質問を理解はしていたが、それどころではなかったのだ。 ずっと探している。その単語を。今も心中を漁って。 「ウチの・・・。ウチのせいです!」 何も言わない彼女に慌てたように、アキが叫んだ。 ゆっくりと、声がした方に顔を向ける。 (マスター?) 「・・・ウチが・・・ルクスに無理をさせすぎて」 一週間聞き続けた、涙声に変わっていく声。 「構ってあげれなくて・・・そんで・・・彼女の事を何も考えてあげれなくて。色が見えてないって事さえも、気付いてあげられへんかったのは・・・」 絞り出すような声。 (何の為に・・・) 「全部・・・」 どうして? 「なるほど。・・・今の話が本当として。さて、貴女には、彼女を恨む権利があります」 別の方向から、小幡の冷静極まりない声が聞こえた。 「・・・。・・・!」 ルクスは『恨む』という単語に驚いて顔を振り向ける。 「ルクスさん? 神姫の不調さえ気付かず、戦いを強い、視力を奪い去った彼女を。それでも赦すのですね?」 それは。 赦す・・・? 「当然ですよね。貴女は、彼女の神姫なのだから」 「そ、それは! ちゃいます! ウチは!」 驚いたような、アキの声。 「お黙りなさい、山県さん」 それを封じる、厳しく、冷たい声。 「・・・これは、貴女の問題でもありますが、同時に彼女の問題でもあるのですよ?」 情に流されぬ研究者の声。 「どうですか? ・・・ルクスさん」 「・・・」 アキの、漏れるような声だけ、聞こえている沈黙の中。 (・・・あ) ルクスは、ようやく『一つの単語』に辿り着いた。 「・・・『光を失う』事」 質問の回答になっていない言葉を、彼女は紡いだ。 「これは、私への罰。・・・マスターの顔さえ直視せず。その声から耳を塞ぎ・・・『それ』から逃げ続けた」 直立したまま、淡々と。感情がほとんど込もっていない声で続ける。 「私は・・・『それ』を受け止めようとしなかった」 ふっと、自分の声調が変わった。 「大好きなネイルアートをやめてしまわれた。・・・髪が、傷つくからと」 それは誰の為に。 「パーツを持った事も無いドライバーで分解し、綺麗に洗ってくれたのも。ハンドカスタムしようとして。絆創膏だらけになってしまった指先も」 一体誰の為だったか。 「初勝利のときに誰よりも喜んでくれたのも。時間が無いのにアルバイトをして、兵装をフルチェックに出してくれたのも」 全ては。誰の為だった? 「・・・。そんな事を、何も考えずに受け止め。それが当然だと甘えながら」 それら全ては。誰に向けられていた? 「マスターの声に耳を傾けず、その瞳を真っ直ぐ見る事さえ出来ない・・・こんな」 声が揺れていた。とめどない感情の奔流が口から流れ出す。 ルクスは膝から崩れ落ち、その場にへたり込んだ。 何も見えぬ闇の世界。冷たい机の堅さだけが、足から伝わってくる。 「本当に救いようの無い、愚かな神姫の為に」 マスターは。私に。 どれほどの『それ』を注いでくれていたのか。そんな事さえ考えもしない神姫の為に。 「私は・・・」 光を照り返さない瞳を天に向ける。それも空しき抗いに過ぎず、涙が目から零れ落ちた。 「私は、きっと。愛されていた」 『愛』。 そんな簡単な単語を導くために。一体、どれほどの時間が必要だったのか。 雫が落ちる音が聞こえる。それは、誰の涙なのか。ようやく彼女は、全てを認識した。 「この光を失う事は。その愛を踏み躙り、目を伏せ続けた。愚かな私への罰」 「・・・。受け入れると?」 冷たくこちらを刺す様な小幡の声。ルクスは小さく頷き。唇をわななかせた。 当然の罰。受けるべき刑・・・。 「・・・それでも」 メモリーを埋め尽くす、最後に見た映像。 彼女は・・・マスターは。 「それでも・・・私はっ!」 何も掴めぬ指で見えぬ目を閉じ顔を覆う。消えない。その映像は消えはしない。 はじめて・・・そう、はじめて真っ直ぐに見詰め合った、陽の如き愛を注いでくれたマスターは。 泣いていたのだ。 こんな、愚か者の為に。 「マスターの姿を・・・失いたくないっ!!」 泣いていたのだ! こんな、『愛』を『涙』にしか換える事が出来ない、ガラクタの為に! このまま光を失えば。自分は、ずっとずっと知らないまま。 泣いていない、哀しみに囚われていないマスターの顔を。 愛を与え続けてくれた、いつも自分へ向けてくれていたはずの、唯一無二のマスターの顔を! 「う・・・う、ひぐっ・・・。マスタ・・・マスタぁ!」 心が無茶苦茶に掻き乱されていく。氾濫する感情。 メモリーを埋め尽くすのはアキの泣き顔。姿を見る事さえ適わぬ主を、彼女は叫ぶように呼ぶ。 あの泣き顔が・・・与えてくれた愛に出した答え。あの涙が、愛の代価として私がマスターに与えた物だ! 身を引き裂くほどの後悔と懺悔。ルクスは両手を地に付いた。 「ごめん、なさい。ごめんなさい・・・っ!」 吐き出された『想い』。赦されるとは思っていない。赦されるはずなんてない。 自身がやってきた事。自身が口にした言葉。 その須らくが、愛への『裏切り』に他ならなかった。 何本の棘をマスターの心に叩き込んだ? 果たして、どれだけの愛を捨ててきたのか? どれほどの愛を踏み躙ったのか! 考えただけで心が押し潰されそうな罪。 身動きさえ取れないルクスを、誰かがそっと抱き上げた。 「・・・。マスター・・・?」 知っているコロンの香りに、彼女は、ぽつりと呼んだ。 「・・・」 しゃくり上げる声。何も言わず。アキはルクスをぎゅっと胸に抱いた。 暖かい。知っている匂いと温もり。 ・・・初めて起動した時に、抱き上げてくれた時と同じ。 あの頃から・・・この、こんな神姫に・・・この人は、『愛』を注いでくれていたのに。 彼女は咽び泣いた。ごめんなさいと、ただ繰り返しながら。 「小幡、さん」 泣き続ける彼女を抱きながら、自身も涙でボロボロの顔を、アキは小幡に向けた。 「・・・。解りました」 小幡は静かに頷き、微笑を浮かべた。 「彼女に・・・良い『名』を、お付けになりましたね。山県さん」 「・・・! はい」 ルクスを抱き締めたアキを、小幡は奥の部屋に誘った。 再起動音が自分の耳の奥で鳴っている。とすれば。これは、夢、だろうか。 ゆっくりと眼を開ける一瞬前。ルクスは不思議な光景を見た。 どこまでも続く、晴れた風吹く草原。そこに立つ彼女の前に、一人の美しい神姫が髪を風に揺らせ立っている。 翠の髪。そして、銀色の瞳。パールと草色のスーツカラー。 その神姫はルクスに優しく微笑みかけていた。 『・・・母様?』 ふと自然と出た、その言葉。 風が吹き、草原が消えていった。 高い電子音が一度鳴る。 その瞳の色は銀色に変わっていた。焦点が合い、部屋を視界に映し出す。 「ルクスっ!?」 覗きこむ、心配そうな顔。 ルクスは小さく頷いた。 ぱっと、アキが笑顔に変わる。 (あぁ・・・) 赤い縁の洒落た眼鏡。 染めた髪にメッシュが入って何と鮮やかな。 銀のピアスで賑やかな耳元。 どことなく日本人とは違う印象を与える、顔立ち。 「マスター」 私は、こんなに近くにあった愛を。長く、見ようともしなかったのか。 「見えるな? 見えるんやな!?」 「はい・・・」 これほどまでに。美しい愛の姿を。 「・・・はい、マスター。異常ありません」 そう言い終わったときには。強く、胸に抱きしめられていた。 空はどこまでも蒼く、遠く千切れたような白い雲。 グレーのアスファルト。走る色とりどりの電気自動車。街路樹は緑の葉を萌やし、金の木漏れ日を落としている。 歩く、黒い影。肩に小さな影。 目に映る、初めての世界の色。 「ゼリスさんかぁ・・・凄いヒトもいるねんなぁ」 「はい」 あの後ディスクを見て、この『瞳』が誰の物かを知った。 きっと。夢の中で思わず口走った言葉は・・・決して間違いではなかった。 「・・・重いね」 「はい」 「頑張らな、アカンね」 「はい。マスター」 こちらに向けられた視線を真っ直ぐに見返し、ルクスは頷いて見せた。アキも嬉しげに頷き返す。 ただそれだけ。こんなに簡単な事が。今まで出来なかったのか・・・。 胸の奥でCSCが揺れて、心が熱くなる。 「・・・ん? メール?」 開いたケータイに目をやったアキの表情が一変する。 「しもたっ・・・今日絶対受講の講義が七限にあるんやったっけ。間に合うかな!?」 「・・・。時間的に一時間後までにラピッド=エクスプレスに乗れば間に合います。急ぎましょう」 脳内で時間割を的確に展開、計算してルクスはアドバイスを送る。 「・・・マスター」 「ん?」 「私の名に・・・何か、意味があるのですか?」 恐縮するようにルクスは聞く。 小幡が言っていた言葉が気になっていた。『良い名』とは。如何なる意味なのか。 「あ・・・『ルクス』ってのはな」 ストラップだらけのケータイをポケットに捻じ込むと、アキは嬉しげに笑って見せた。 「ウチと、同じ」 「?」 「『光』っていう意味やねん」 風が、吹き抜けた。 「よし、バス停まで走るで!」 「・・・。はい、マスター」 しっかりと服に掴まる。放さないように。そして離れないように。 銀の瞳をビルの間に見える天に向け、涙を浮かべている事に、気付かれないように祈りながら。 ・・・。 この愛は私には大きすぎる。 この光は私には眩しすぎる。 それでも。 こんな愚かな、ド阿呆と・・・怒られるような神姫でも。 貴女の『愛』を、『笑顔』に換えられる様に。 ・・・愛していこう、ずっと。 光溢れる天よりの旋風。鳥、舞い降りるその一迅。 海には波を誘い。空には雲を呼び。その髪を遊んで吹き抜ける。 第五幕。下幕。 第五間幕
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1151.html
夏の夜のけだるい空気の中で、僕は呆然と目の前にいる男たちを見つめていた。しとしとと降る雨、水蒸気と排ガスを含んだ都会の空気、夜のアスファルトから上がってくる妙にひんやりとした湿気、行き交う人々の雑踏、ごうごうとうなる車のロードノイズ。それらが一気に背中から襲いかかってきたような気がした。 目の前にいるのは、成人男性が二人。一人はGパン、シャツにざっくりとしたニットのタイ、麻のサマージャケットを着ている。年齢は恐らく三十代だろう。でも、そっちはまだよかった。問題はもう一人だ、いい歳をした成人男性のようだけど、夏だというのに肩口にケープ状のヒラヒラが付いた真っ黒なコートを着ている(後で調べたら、トンビ、と言うらしい)、それだけでも驚きだけど、とどめに派手な形をしたオレンジのヘッドギアを被っていた。 さすがにこれにはあきれてしまった。 「本当にあの人たち…、いや、どう見てもあの人たちなんだろうけど、大丈夫なのか」 胸ポケットにささやいた。すると。 「ああ、彼じゃないのか」 「そうなのであーる! 情報とおりなのであーる!」 ………見つかっちゃったよ。 「大丈夫ですよ、主。私たちを信じてください」 胸ポケットから、遅れて返答がかえってきた。応えたのは、武装神姫と呼ばれている身長15㌢のフィギュアロボだ。個体名はシラヌイ、忍者型MMS。今日、僕は彼女に乞われるまま、この場所に来ることになった。 そのいち。 大学の講義を終え、アパートに戻ると、サイドテーブルに置いてあるチェス盤に向かった。 もう何敗したか数えるのもイヤになっていた。まだ序盤、お互いのポーンが盤上に展開していた。 「もうお帰りになったんですか」 机の上、ノートパソコンの脇から声がした。チェスの対戦相手を務めてくれている、武装神姫のシラヌイだ。忍者型独特の黒にメッシュのボディスーツが、彼女の小柄な体躯を強調していた。が、見かけとはうらはらに、彼女が指してくる手は非情そのものだ。ま、僕がそうするようにと指示したのだけど。 「うん、講義も終わったから、やることもないしね」 「主、せっかく大学に入られたのですから、お友達を作られては」 またか。 僕は大学の学生連中が嫌いだった。なぜかと問われれば理由はないけど、どうにもソリが合わない。神姫サークルがあったけど、勧誘チラシのノリの軽さがカンに触った。 「いいんだよ。友達なんて無理につくるものじゃないだろうに」 そう言って、僕はチェス盤をにらんだ。 「でもー」 「もうその話はいいよ」 シラヌイはあきらめたように、一拍置くと、話をチェスに切り替えた。 「定石を学ばれれば、主ももっとゲームを楽しめるようになりますよ」 「いや、いいんだ。それって、初回から攻略本を使ってゲームをするようなもんじゃん。何か、タネをばらされてから手品を見せられているようで面白くないんだ。まずはある程度チェスの感覚を掴んでから、と思っているのだけど」 「確かに、主の意見も一理ありますね」 僕はポーンをひとつ、動かした。彼女はそれを見ると、自陣のナイトを抱え、他の駒を倒さないようにぐるりと回って配置をした。それを見て、また頭を抱えることになった。もう身動きがとれない。その様子を見て彼女が漏らす。 「だから、定石を学んでください、と申し上げているのです。単純に相手の駒を取ればよい、というものでもありません。どのようにして、自身に有利な布陣を敷くことができるのかがポイントなのです」 「うーん、見ていて、とりあえず最前線っていうかキーポイントになる駒には常にバックアップが付いていることは理解したよ。それがいつでも出来る体制をつくるって言うのがー」 僕は改めてそのナイトが置かれた位置を見る。ここからがいつも問題なんだ…。 「そこまで理解されているのなら、次の段階に進まれてもよいと思うのですが」 そんな彼女の声を聞きながら、違和感を感じていた。その違和感の原因はすぐに解った。いつもなら、彼女は自分の手を打ち終わると、長考のジャマにならないように机の角に腰掛けて、こちらがどんな手を打つのかと眺めているはずだ。でも、今日の彼女は盤の周りをチョロチョロと動き回っていた。いつもと違う動きだ。 「なぁ、何かあったの」 そう尋ねても、彼女は何かを言いよどんでいるような曖昧な返事をするだけだった。明らかにおかしい。僕は彼女に向き直ると改めて尋ねた。 「何かあるのなら、はっきり言ってよ」 命令することもできたけど、それは最後の手段としてとっておきたかった。 ちょっと間をおいて、彼女が口を開いた。 「実を申しますと、主に野良神姫の保護をお願いしたいのです」 「はい?」 空いた口がふさがらない、とかなんかそんな感じ。 武装神姫はその起動時に、その所有者である「マスター」の登録をし、それは一般には変更が出来ないことになっている。だけど、なぜか、マスターの元を離れて暮らす神姫、野良神姫がいる、という話は耳にしていた。でも、実際に確認されたという話は聞いたことがなかった。すっかり都市伝説とかそーゆーものだと思っていたのだけれど。 話を聞いても、まだ信じられない、と言うか、ますます信じられなくなってきた。僕が部屋を空ける時、彼女はクレイドルでスリープモードに入っていたりする。その状態で彼女たちはパソコンの操作ができるし、僕自身、彼女がパソコンを利用することを許可していた。パソコン自体の保守管理を任せられるし。で、彼女によると、ネット上には何カ所か、神姫同士が情報交換をする場所があるのだ、という。どうやってその場所を知ったものか、彼女もそこによくアクセスしていたのだとか。そこでこんな情報が上がってきた。曰く「野良神姫を発見した。でも、自分のマスターは小学生なので、保護を無理強いするわけにはいかない。どうやらイリーガル崩れらしいので、そのまま放っておくわけにもいかない」と。その書き込みに複数の神姫が「ウチのマスターなら協力してくれるかも」と名乗りを上げた。その一体が自分である、と。 ちなみに保護した神姫のために野良神姫専門の保護施設などがあり、また、イリーガルなど著しい改造が施されていた場合には、神姫専門のラボに送られるのだそうだ。 「で、イリーガルって? なんかイヤな予感がするンだけど」 「相手神姫の破壊を勝利条件にした、いわゆる闇バトルというものがあります。それに参戦するためにチューンされた神姫がイリーガルです。出力の向上が図られているほか、武装も実際に相手神姫を破壊することを主目的とした相応の威力のものを装備しています。また………当然、公式戦には参加できません」 さらりと恐ろしい台詞を言ってのける。 さて、どうしたものか。ただ、そのときは面白そうだな、と思った。 「よし、じゃぁ、もう一度詳しい情報を集めてくれ。ヤバげな武装をもっているようなら止めだ。でも相手が単体なら、何人かで協力すれば保護できるかもしれない」 そして、数日の打ち合わせを経て、僕を含む三人が今回の野良神姫保護をすることになった。 そのに。 ここは都心のとある駅前。前もって打ち合わせていた通り、二人の男性が僕を待っていた。 ただ、その男たちは僕の想像していた神姫のマスター像を色々な意味で裏切っていた。 一人はどうみても三十代の男性。武装神姫のマスターって、僕と同じくらいの大学生かと思っていたのだけど。で、もう一人がまたこれは別の意味で問題だった。夏なのに、真っ黒なコート。それだけでも不審者の必要十分条件を満たしているのに、とどめにヘンテコなヘッドギアを被っているときた。でも、時々、奇異の目を向ける人はいるものの、街行く人々はほとんど関心がないように二人の周囲を通り過ぎていく。ま、ここまで来て帰るのももったいない。 「どうも、こんばんわ」 まずはあいさつ。ジャケットを着た男性が僕に声をかけた。 「えーと、忍者型、シラヌイのマスターさんだっけ。侍型の椿のマスターだ」 うん、どうやら普通の人みたいだ。ジャケットの胸ポケットから顔を出した神姫がこちらに会釈をした。で。 「よし、我が輩は世界征服をたくらむ悪の秘密結社、ねこねこ団のー」 やっぱりコイツが問題だった。ヘッドギア男は右手を高々と上げ、ジェスチャーたっぷりに、カン高い声で演説のような自己紹介を始めた。ねこねこ団と言われて気がついたけど、彼のヘッドギアは猫型MMSが標準装備しているそれを模したものだった。事前に侍型、猫型のマスターが来るとは聞いていたけど、これはそうとう重傷だな。 「なぁ、ちょっと声を下げないか」 椿のマスターが低い声で文句を言った。 「何を言うか、貴様、せっかくこのような雑踏で我が輩が…」 反論しかけて、コケた。椿のマスターの胸元に顔から突っ込む。 「オイ、ひっつくなよ。気持ち悪い」 片手で男の顔をぐいと押しやる。まおちゃお団員の彼は、今度はよろめきながら僕の方へ倒れ込んできた。僕よりも少し背が低いだろうか。 「ちょっと、止めてくださいよ」 僕は両手で彼を押し返す。っと、行き着く先はまたもや椿のマスターの胸元だ。 「だから、くっつくなって」 「来ないでくださいよ」 「ちょ、止めるのであーる」 まおちゃお団の彼は僕らの間で、右に左にと押しやられていた。ーと。 「もういいかげんにするのだ。野良神姫の話はどうなったのだ」 声とともにヘッドギアの陰から、猫型がもぞもぞと姿を表した。 「そうですよ、マスター。この方の服装や行動がいくら社会規範から外れているからといって、遊ぶのはこれくらいにしてください」 椿が声を上げた。けっこう、ポイズン。 「………あー、ゴメン。遊びすぎたわ」 「状況を確認しよう」 椿のマスターが言った。ここは、駅にほど近いファーストフード店。僕らはそれぞれ好みの飲みものを片手に、椿のマスターが配るプリントを眺めていた。僕はウーロン茶、椿のマスターはコーヒー、ヘッドギア男はオレンジジュースだ。テーブルの上にはシラヌイたち、三体の神姫がこれからの話を待ち受けていた。 「野良神姫は廃ビルで生活をしている。目撃情報によると、情報提供者の神姫の呼びかけに対して、例によって通常の神姫が取るとされる対応からは、えー、大きく逸脱した行動をした。それで、イリーガルではないか、と。今のところ目撃されているのは種型一体。目標がいるビルの見取り図は今渡したプリントにある。これは野良神姫情報を流してくれた神姫からのものだ」 ビルはクルマ三台分の駐車スペースを備えていて、敷地に多少のゆとりがあり、その周囲は塀で囲まれていた。シラヌイと猫型(そういえば名前をまだ聞いていないぞ)はプリントの見取り図を挟んで、椿からレクチャーを受けていた。猫型はヘッドギアをしているだけだったけど、ボディ・スーツは特注ぽい。椿はベージュのスーツ姿。彼女が動くと、侍型の基本の髪型であるポニーテールが揺れる。シラヌイにも何か服を買ってやるべきなのだろうか。 さて、問題の部屋は通用門に面した当直室のようだ。 「神姫が出入りに使っているのは、建物裏の窓だ。赤い丸印があるだろ。その窓がある一室しか使われていないようだ。基本的に昼間は建物の中にいて夜になると出かける。何やら金属片や電子部品なんかを集めているらしい。お出かけの時間は決まっている。今日はその時間に合わせて、対象が外に出た瞬間を狙って保護をする。情報提供者が、出入り口にメッセージを残してくれているとはいうけど、それに応じてくれるとは思わない方がよさそうだ。特に武装は確認されていないとのことだけど、ま、イリーガルのようだし、最悪、保護しきれないかもと考えておこう」 「それは、仕方ないのである」 ヘッドギア男が先ほどまでとは打って変わった、しんみりとした声で応えた。 卓上の神姫たちも沈痛な面持ちでお互いを見つめ合っていた。 なんだか僕だけ仲間はずれみたいだ。 「あの…、イリーガルってそんなに普通の神姫と違うんですか。保護しきれないって、そのときはどうするんですか」 椿のマスターが意外そうな顔をした。 「おい、まさか何も知らないで来たのか」 すかさずシラヌイが割って入った。 「申し訳ありません、皆さん。主、これは私たち神姫にとって大きな問題なのです。イリーガルは勝利の条件として、常に相手神姫の破壊を命じられています。その一方で私たちには同胞を想う感情やバトルをする上での禁止事項がプログラムとして存在しています。だから…」 「だから?」 「イリーガルのほとんどが、メインフレームレベルでプログラムに改ざんを受けている場合が多いのです。そのためのツールも出回っています。それは私たち神姫の意識、精神を破壊することでもあるのです。だから、神姫同士の呼びかけに対する反応や立ち居振る舞いで、ある程度の推測は可能なのです」 う、う、う。これは思った以上に難しい問題をはらんでいるぞ。 「まぁ、ヤーさんがバックにいる賭博の一種だし、知らないのも仕方ないけど。有名な話が去年の闇バトルだ。ヤバすぎるチューンをした神姫がバトル終了後に何をトチ狂ったか、自分のマスターに攻撃して、そいつ、頬の肉をごっそりもってかれたらしい」 「それは神姫にとっても、人間にとっても、良いことではないのであーる。そのためにねこねこ団としても野良神姫やイリーガルの捕獲について積極的に活動をしているのであーる」 「警察に通報すればいいんじゃないですか。何もこんな危険なことをしなくても」 「そしてイリーガルの存在が公になったらどうなると思う。下手したら、武装神姫だけでなく、神姫という商売自体が成立しなくなる可能性だってあるんだぜ。神姫を造っている会社や従業員、神姫ショップだって、直営のものから零細の個人経営のものもある。この国内でも万単位の人間が神姫に関わる商売でメシを食っている。神姫は本当に広がりすぎた。今更、神姫を『無かったこと』になんてできないくらい社会に浸透しているんだ」 「それに」と椿が口を添えた。「私たちとしても姉妹がそのような扱いを受けているということを見過ごすわけには参りません」。続いて猫型ー、マオチャオタイプも「そーなのだ。これはニンゲンにとっても神姫にとっても大問題なのだ。だからカイシャだって支援してくれてるのだ」と言葉をつないだ。 何だって? 「カイシャ」? どこの? 脳裏に神姫のメーカー名がずらりと並んだ。 「ばかもの! それは軽々しく言ってはいけないと話しておいたではないか」 ヘッドギア男がマオチャオタイプを小突いた。椿のマスターが苦笑しながら言った。 「まぁ、今の一言は追求しないほうがいいと思うよ。で、まだ君の質問にひとつ応えてなかったけど、保護しきれない場合はー」 「見逃すんですか」 「いや、破壊する。そのための道具も色々と用意している。椿」 名前を呼ばれた彼女が何かを受け取った。それは神姫サイズの日本刀だけど、標準武装のものとは違う。 武装神姫と言っても、玩具として流通している以上、装備している武器は、その実物をダウンサイジングしたものではなく、あくまでも玩具の範疇に収まるものになっている。もちろん悪魔型の副腕はロボットアームとして機能するし、天使型はその羽で飛ぶこともできる(原理はしらないが)。でも、武装は別だ。銃火器の類いは単なる樹脂の固まりで、刀剣類には刃などついていない。ただ、内部にチップが仕込まれていて、バトルフィールドで、そのチップに応じたエフェクトが投影される。そういう仕組みだ。 でも、目の前の神姫が抜いて見せてくれたそれは、鈍く輝く金属の刃身。公式戦では使えない武装だ。 「こーゆーのもあるのだ」 マオチャオタイプが両手に武装を掲げていた。一見標準武装の研爪(ヤンチャオ)に見えるそれは、爪の部分が金属の棒に変更されていて、コードがバックパックとおぼしき箱に伸びていた。 「これは?」 「強力な電磁パルスで神姫を一時的に動作不能にする装備である。我が輩の傑作なのであーる」 「まぁ、大体それでケリが付くよな」 「お陰で私も実際に姉妹に向けて刃を振るうこともそうありませんし」 「その通りである。貴様はもっと我が輩に感謝するべきなのであーる」 「感謝するのだー!」 どうやら、この二人(と二体)はこれまでに何度か野良神姫、イリーガルの保護をしているらしい。僕は憮然とこちらを見上げているシラヌイを見返した。 「完全に場違いじゃないか。武装は確かに用意しているけど、それは兎型のアーマーとかそんな程度だ。シラヌイ、一体君はこの場で何が出来ると思って僕をこんなところまで引っ張り出したんだ」 「申し訳ありません。主」 すかさずシラヌイが頭を下げる。そして、沈黙。 気づけばテーブルの全員が僕を見つめていた。 「それは君が決断したことだろ。君が決断してここまで来た。彼女に無理矢理連れてこられたわけじゃないだろ」 「私もイリーガルの概要について説明をしたと聞いていましたが。その上で来られたのではなかったのですか」 椿とそのマスターが静かに僕を責めた。 「そんなこと言っても、ここまで危険だなんてわかるわけないでしょ。初めてなんだし」 「それは言い訳なのであーる。神姫から情報を得た時点で自ら考えるのがマスターの果たす役割のひとつなのであーる」 「そーなのだ、そんなんじゃマスター失格なのだ」 今度はヘッドギア男とそのマオチャオタイプだ。 「何なんです、皆で。大体、シラヌイが…」 「も、申し訳在りません、主」 また、シラヌイが頭を下げた。 「もういいのだ、少年。神姫には人間に従うプログラムが高いプライオリティで設定されているのである。責められたら、神姫はマスターに対して頭を下げるしかないのであーる。己の神姫にそのような行動を取らせるようでは本当にマスター失格なのであーる」 更にもまして気まずい沈黙が僕を包んだ。 「なぁ。考えてみろよ。さっきの話と矛盾するけど、こんなの、本来は人間がやってしまえばいい話なんだ。メーカーが動けばビルの所有者に迷惑料兼口止め料でも払って、とっとと回収することも不可能じゃない。各省庁にだってコネはある。スポンサーとしてマスコミを押さえることは出来る。でも、それをしないのは、神姫たちが心を持っているからだ。そのことをメーカーも認めているからだ。ただ、神姫が自分たちだけで活動しようとしても、人権も法的裏付けも何もない以上、単独で何かを、なんて出来ない。マスターたち人間がバックアップして後ろ盾になってやるしかないんだ。今の彼女たちだけではどうにもならない部分を俺たちが補うしかないんだよ」 コーヒーに口をつけると、椿のマスターは淡々と言葉を続けた。 「さて、どうする? 仮にここで君が棄権しても誰も責めることはできない。ま、読みが甘かったと言われるかも知れないがそれはあきらめろ。でも、君がその気なら、こちらも貸し出す武装や装備はある。君が決めろ。時間がない、一分だ」 僕はこの彼の言ったことを反すうした。どうやらチャンスをくれる、ということらしい。しかし、神姫に心があると改めていう言葉を思い出し、僕は彼女との付き合いを思い返していた。 今まで、別にトラブルもなく、彼女との生活を送ってきた。その内容はどうだろう。僕は彼女にパソコンのメンテやら、ネットを通じた口座の管理に神姫バトルと色々してもらっている。でも、僕が彼女に何かをしてあげたことがあったろうか。僕は、神姫に心があることは知識として知っていても、実際にそういう存在として彼女を、シラヌイを扱ったことがないんじゃないだろうか。 「やります。このまま帰ってはシラヌイにー。上手く言えないけど、彼女にヒドいことをしてしまうことになってしまう」 沈黙。 「もうすでにしてるのだ、少年よ」 ヘッドギア男がつぶやいた。 僕は、テーブルの上のシラヌイを見た。彼女はただただ申し訳なさそうにうつむいていた。本当に、僕は、ダメだ。情けない気持ちで一杯になった。なんで、こういう他の人が普通に気づけることに僕は気づけないんだろう。今までもそうだったけど、これからも未来永劫そうなんだろうか。 「君、人付き合いが苦手だろ」 椿のマスターだ。 「苦手って言うか、解らない。違うかい?」 さっきとは変わって、口調や態度が少し優しくなっていた。 「はい、解りません」 そうだ、これまでだって、そうだ。真摯に対応しようと思えば思うほど、相手はどんどん冷ややかになっていく。そしてお決まりの台詞だ。「もういいよ、そういうことが解らない人にいてもらいたくない」と、そう優しく言われるんだ。どうしてだろう。本当に解らない。ああ、ここでの僕も終わったな。そう、思った。 でも、違った。 「そんな自分を良い方向に変えていきたいと思っているのかい」 僕は一瞬ぽかんとして、それから、答えた。 「はい。そう思っています。でも…」 「『でも』は、いい。来い。さっきそう君が言ったんだ。装備は貸してやる」 椿のマスターはそう言い切った。 「良いのであるか?」 「誰にだって初めてはあるだろ」 「いや、しかしだな」 「言っておくけど、お前さんと初めて組んだ時は酷かったぞ」 「………それは言わない約束なのであーる」 彼らのやり取りを尻目に、僕はシラヌイに頭を下げた。 そのさん。 その三階建てのビルは、僕が想像していたより、ずっとこじんまりとしたものだった。繁華街からちょっと離れた住宅街。ところどころに事務所やセレクトショップが立ち並ぶ、ちょっと小洒落た場所だ。今は使われていないその建物は街頭の光も吸い込んで立ちつくす真っ黒な壁のようにも思えた。 門にある鉄パイプで組んだバリケードを、ふたりは身軽に乗り越えて敷地に入っていく。僕もそれに続く。 僕らは門柱の陰に座り込んで、シラヌイたちの準備を始めた。 「あのー、すみません。今日の保護活動をされる皆さんですね」 頭上から響くか細い声に、全員が腔を見上げた。そこにはエウクランテ型の神姫が羽をつけて浮遊していた。 「最初に皆さんにご相談させて頂いたオーディーヌです。今日は本当にありがとうございます」。全員に向け頭を下げた。「今日は私はお手伝いをすることができません。でも、皆さんがあの神姫を無事に保護できるようにと、私のマスターと祈らせて頂きます」 神姫はどんなカミサマに祈るんだろう。そんなことを考えていると、そのエウクランテ型ー、オーディーヌは僕の名前を呼んだ。 「シラヌイさんから聞いています。危険を伴う今回の保護への参加を、初めてであるにも関わらず、決断されたそうですね。シラヌイさんもそのことを誇りに思っていらっしゃると思います。是非、良い結果を残してください。私たち神姫のわがままに付き合ってくださって、本当にありがとう」 そう言うと、オーディーヌはふわふわと飛んでいった。 「シラヌイ」 「はい、主」 ヴァッフェバニーの装備に身を包んだ彼女が応えた。 「僕は、君が望んだことを君が成し遂げられるように、君のバックアップをする。だから、君は構わずに正しいと思ったことをしてくれ」 「はい、主。お任せください」 そう言って微笑んだ彼女の顔は、なぜか儚げに見えた。 「さて、お姫様が城から出てくる時間だぞ」 椿のマスターが言った。シラヌイたちはそれぞれの位置についている。シラヌイはヴァッフェバニー装備に、椿のものと同じ日本刀、マオチャオタイプは標準装備の鎧に先ほどの電磁パルス武装、椿は最初から着ていたスーツ姿のままだ。椿が説得し、それに失敗した場合、マオチャオが仕留める。シラヌイの役目は相手神姫が逃げようとした場合に退路を断つことにある、らしい。らしい、というのはこの役割分担が神姫同士の話し合いで決まったからだ。三体はそれぞれ、小型のCCDを肩に載せていた。その画像は、ヘッドギア男のノートパソコンに送られる。 僕らも黙って見ているわけではなかった。ヘッドギア男のノートパソコン脇にはSMGタイプのエア・ガンが地べたに置かれている。モノ自体は市販のものと変わらないが、弾が違う。硬度と重量を増した、特殊BB弾、もしくは神姫のボディに当たっただけで砕ける、(対神姫)非殺傷弾の二種類がマガジンで用意されている。椿のマスターが持っているのも同じくエア・ガンだ。ただし、こちらはアメリカのサバイバル・ゲームで使われている、大型のペイント弾を扱うタイプだ。こちらも弾は通常のペイント弾ではなく、いわゆるトリモチ、粘着弾が入っている。通常、対象の神姫が着弾点から半径二十センチ以内にいれば確実に動きを止めることが出来るそうだ。そして僕が持っているのが、彼ら曰く「捕獲銃」だ。仕組みはバネの力でミサイルを飛ばすオモチャなのだけど、五十センチ四方の金属製の網を飛ばす。有効射程は一メートル五十センチ。発射後、スイッチを入れると、瞬間的に高圧電流を流し、ネットに捕獲された神姫の動きを一時的に止めることが出来る、という。 僕らは敷地の隅に集まって、ヘッドギア男のノートパソコンの画面を覗き込んでいた。 「今日の主賓が登場したのであーる」 椿のCCDから送られてくる画像に対象に神姫の姿が映っていた。そして、それはあまりにも異様だった。その神姫は四つん這いの姿勢で画面に向かってカチャカチャと進んできた。椿の声が聞こえた。 「こんばんわ。私は椿と言います。少しあなたとお話がしたいのですが、よろしいでしょうか」 相手神姫は情報通り、武装はなし。種型の基本装備のブーツと腰回りのアーマーだけのようだ。声をかけられた神姫は無表情のまま首を傾けた。椿が言を継ぐ。 「もし、あなたのマスターがいらっしゃらないのであれば、あなたにとってもメリットのある解決方法をー」 いきなり、種型が画面に向かってジャンプした。これを受けて、シラヌイとマオチャオタイプが動いた。 椿はその場で姿勢を崩さずに、素立ちの姿勢から真上にジャンプ。ジャケットの裾から背中に隠していた日本刀が地面に落ちる。空を切る種型の手刀。マオチャオタイプがかけ声と共に種型に迫る。 「おとなしくするのだー!」 画面がいきなりブラックアウト。シラヌイの映像を見ると、まるで人間が神姫を掴んで投げ付けたような勢いで、種型の蹴りを喰らってすっとぶマオチャオタイプが見えた。ノーマルの神姫同士が本気でバトルしても到底こんな力は出ない。その間に空中でバク転を決めた椿が初期位置から十センチほど後方に着地。そのまま自分に向かって倒れ込んでくる日本刀を掴んで、抜刀する。 「行くぞ」 椿のマスターの声を聞いて、何も考えられないまま、ダッシュ。現場へ向かう。 椿と種型が交戦状態にあるのが見えた。シラヌイとマオチャオタイプの姿は見えない。どこだ? 「構わん、撃っちまえ。椿は巻き込まれても大丈夫だ。撃て」 遅れてきた椿のマスターが言う。一瞬、ためらう。種型が椿の腕をねじり上げて、武装コネクタの部分から腕を引っこ抜いた。その手に握られた日本刀を手に、種型は今度は僕に向かって跳躍してきた。 「撃てよ、オイ!」 エアガンの連射音が響く。ヘッドギア男のSMGを椿のマスターが撃っていた。何発かが命中したものの、種型はボディの表面ではじける弾には構わずにコチラへ向かって飛び込んでくる。 と、目の前に何か黒いものが疾った。鋭い金属音が響く。 種型はぼとりと僕の目の前の地面に落ちると、背後を振り返った。そこにはシラヌイが地面に倒れ込んでいる。僕はすかさずトリガーを引いた。種型がネットに取り込まれる。電源のスイッチを入れると、種型は地面に仰向けに倒れ込みー。 「ーーーーーーーー!!」 声にならない音を上げ、手足をバタバタさせて暴れた。椿のマスターがトリモチを打ち込む。一発では動きも、声も止まらず、二発目、三発目でその動きがようやく止まった。声もくぐもって聞こえなくなった。 「シラヌイ!?」 僕の呼びかけに彼女は起き上がって応えた。 「主も、ご無事で」 ヘッドギア男も駆け寄ってきた。 「我が輩のねこ助は無事なのであるか」 椿がマオチャオタイプを背負ってやってきた。さっき、もぎ取られた腕は無事にくっついていた。無理な体制に持ち込まれることを嫌った彼女が、自らロックを外したのだろう。 「無事です。鎧が割れてしまいましたし、まだスタン状態にあるようですが、CSC及びコア・ユニットの損傷はありません」 そういうと、ヘッドギア男の手のひらに、彼のマオチャオをそっと乗せた。 「おーい。まだ仕事は残ってるんだぜ」 椿のマスターはトリモチの塊と化した神姫をビニールに包んで、そのまま金属のケースに入れてロックした。蓋に付いているLEDがチカチカと瞬く。このケースも神姫の保護のために用意されたもので、神姫に機能停止の信号を送ることになっている。機能停止は神姫が持たされている人間にとっての安全弁のひとつで、イリーガルも例外ではない。むしろ、イリーガルの方が暴走の危険性が高いため、改造を受けてもその機能は残されているし、二重三重に機能停止の手段が盛り込まれている場合すらあるという。 僕はシラヌイに近づくと、そっと彼女をすくいあげた。 気づくと、しとしとと降っていた雨も止み、夜空には都会の明かりにとけ込みそうになりながら星が瞬いていた。 そのよん。 駅前に戻った僕らは、屋台で祝杯を上げていた。椿のマスターとヘッドギア男は青島、僕はZIMAだ。路上に並べられたテーブルの他の席では仕事帰りのサラリーマンやらカップルやらがそれぞれの夜を楽しんでいた。 「今日はお疲れ」 ふたりがボトルネックを掴み、ビン底を打ち合わせて乾杯するのを見て、僕もあわててボトルを持ち直した。 「今日は君たちがMVPだな」 「おかげで助かったのであーる」 二人がボトルを打ち付けてくるのを受ける。チン、と涼やかな音がした。テーブルの上ではシラヌイたちが歓談していた。シラヌイは右腕に白いテープを包帯のように巻いていた。種型に突進したとき、ボディスーツを切り裂かれてしまっていたのだ。それを見た椿が包帯代わりの応急処置にとテープを巻いてくれていた。 「まぁだふらふらするのだ」 「けっこうな勢いで蹴り飛ばされましたからね。直らないようであれば、明日、センターで内部機構のチェックをするのが良いでしょう」 「イリーガルがあれほどの力を発揮するとは思いませんでした。私も認識が甘かったようですね」 それぞれが感想を口にする。 「本当に大丈夫なのであるか」 「内部機能の診断はおーるぐりーんなのだ。それよりも、今回は全く良いところがなかったのだ。もっと活躍できるように新しい装備を開発しやがれなのだ」 「あいや、今日は、シラヌイ殿に良いところを見せようとして無防備に突進したー」 「言い訳無用なのだ。わかったかなのだ」 一方的にやり込められるヘッドギア男の姿に周辺のテーブルの客たちからも笑い声が漏れた。 「責めないんですか、僕を」 椿のマスターに向かって言った。 「何を」 「『撃て』って言われたのに撃てなかった。そのせいでシラヌイにケガをさせてしまった」 彼は夜空を見上げ、考えるようなそぶりを見せて話しはじめた。 「今日、最初に会ったとき、さんざんだったよな。君は。でも、君は自分自身の考えで、自分自身をどうにかしたいと思って今日の活動に参加した。君は自分自身で解っているから」 「何をですか」 「自分には何かが欠けている、ヘンだ、とね。そしてそれをなんとかしたい、と思っている。例えば、今は、自分の行動を振り返って反省している。なら、次回から直せばいい。 最初に君も認めた対人関係が苦手な部分、結局それが神姫への不義理な扱いに繋がっているのだけどー、それだって直していけばいい。神姫は、人間だったら離れていくような行動をとっても、あくまでマスターについていく。君は君のシラヌイから人の付き合い方を学べばいい。ただ、彼女に甘えるなよ。学生だったらサークルのひとつにでも入って、そこで友達でもつくってー」 「それは、無理ですよ。ソリの合わない人が多くて」 「うん、でも、校内の学生全員と顔を合わせたわけじゃないだろ。騙されたと思って神姫サークルでも立ち上げたらどうだ」 釈然とせずに僕は黙り込んだ。 「ま、無理強いはしないが、動かないことにはどうにもならんだろ」 確かに、そうだ。今日のことだって、最初に僕が帰っていたら、こういう展開にはならなかっただろうし。 「はい。………学校には神姫のサークルがあるんで、明日、いってきます」 「最初から、上手く行くとは考えないでな。軽く話しを合わせて、そんなもんだ」 手の甲に、柔らかくひんやりとしたものが当たった。テーブルの上に置いた僕の手に、シラヌイが身を寄せていた。 「私もお手伝いさせて頂きます、主」 見上げるシラヌイに何と言ったら良いのかとちょっと考えて、答えた。 「ありがとう。これからも迷惑をかけることになるかもしれないけれど、良いマスターになってみせるよ」 「はい。私は常に主とともに居ります。これからも、主のために」 お互いに黙り込んだまま見つめ合う僕らに気づいたマオチャオタイプが、矛先をこちらに向けた。 「おお、なんかいい雰囲気なのだ」 「ちょっと、お止めなさい。大事な場面なのですから」 これは椿さん。とはいえ好奇心まるだしの表情でこちらを見ているのは何ですか。 「うむ、マスターとしての自覚を新たにしたのであるな。それでこそー」 ビール一杯で顔を真っ赤にしたヘッドギア男がまた、演説口調で話し始めた瞬間。 「うるせーよ」 「本当に、公共の場所での行動をわきまえない方ですね」 「今、良いところなのだ、ひかえおうろうなのだ」 「せっかく主と良い雰囲気でしたのに」 一斉に非難の声が飛んだ。 Das Ende.
https://w.atwiki.jp/battleconductor/pages/123.html
登場人物(NPC神姫)OPムービーのアーンヴァルMk.2 てん 謎のエーデルワイス型 大型バグ・オメガ 闇神姫 種村ジュビ子 黒種ジュビ美 ミラージュ・シリーズ ハナ イバラ ユメ ドロシー ストラ 悪神姫 鎧原フォスター 剣崎フェスター 甲季 刀華 ノララーフ ジル ラズちゃむ エウエウ 藤田フブルン コメント 登場人物(NPC神姫) 本作に登場しているNPC神姫です。 多くの場合は、レイドボスバトルで登場する人物となります。 OPムービーのアーンヴァルMk.2 稼動当初から登場している、見ての通りの天使型アーンヴァルMk.2。個体名は不明だが、少なくともてんとは別個体。 とあるギタリストの動きを完全再現出来る程にギター演奏が得意。 ベイビーラズ「あたしも実装された事だし、そろそろ混ぜて欲しいじゃん…」 てん 天使型アーンヴァルMk.2。神姫ショップ神姫(SSS)の称号と、同型機よりも多いアホ毛を持つ。 公式コミックではほぼレギュラーだが、ゲーム本編には姿を見せていない…訳ではない。 実は、本作稼動当初はバトル終了後の神姫お迎え画面で登場している。「入荷した神姫にすぐちゅーする」悪癖のせいでかずっと研修中の身だったが、シーズン2では神姫ショップのアイテム購入画面へと「異動」させられたのと引き換えに(?)晴れて正社員へと昇格した。 どちらにせよ、単にモデリングの都合上アホ毛が見られないので分かりにくいというだけなのである。 謎のエーデルワイス型 「それはバグの仕業よ!」 猟兵型エーデルワイス。レイドボスバトル(第一回)~(第二回)、復刻(第六回/前半)、(第十一回)に登場。 どうやら「武装神姫R」がリリースされた世界線の存在であるらしく、かの世界から出現したバグを追ってこの世界に来訪し、プレイヤー側の神姫達と共闘する。 なお、現存するエーデルワイス型との関係は一切不明。 大型バグ・オメガ レイドボスバトル(バグ編:第一回~第二回)に登場したレイドボス。 メタルギア・シリーズの核搭載二足歩行戦車「メタルギアREX」またはグラディウス・シリーズの歩行型対空ロボ「ダッカー」のような姿をしている。 巨大な体躯で明らかに神姫ではないためか、部位破壊要素(弱点要素つき)が存在する。 なお復刻レイド(第六回および第十回、第十一回)にも登場しているが、これが残存していた個体なのかバグの性能を再現したエラーなのかは判然としていない。 (様々な状況証拠から後者である蓋然性は高いが、絶対とは言い切れない) 闇神姫 レイドボスバトル(第二回)に登場したレイドボス。 謎のエーデルワイス型曰く「いまだ目的も正体も不明な、マスターを持たない神姫」。バグを増殖させて「武装神姫R」の世界に悪影響を及ぼす存在との事。 悪影響を及ぼしたのはあちらの世界だけではなかったようで、後に第八回においてレイドボスの剣崎が「闇堕ち」した原因のひとつとも考えられている。 ちなみに、その後の復刻(第六回)には出現していない(大型バグ・オメガは登場し、これを倒すと闇神姫の装備をドロップした)が、復刻(第十回)において「小型/中型バグと同型のエラー達」を引き連れて久々の再登場を果たし、復刻(第十一回)にも引き続き登場する。 種村ジュビ子 種型ジュビジー。レイドボスバトル(第三回)に登場した、神姫NET管理局環境農業課所属の「お役所神姫」。 飛び道具が対エラー特効を持っている事が多く、また防御力にも優れるため雑魚戦では活躍してくれるが、その分対ボス戦では決め手に欠ける。 その後もスポット参戦ながら、第七回・第八回ついでに復刻(第六回/後半)&復刻(第十回)と度々エラー退治に駆り出されまくっているが、そもそもお仕事が大好きなので全然平気らしい。 黒種ジュビ美 種型ジュビジー(リペイント)。レイドボスバトル(第三回)および復刻(第六回)に登場したレイドボスで、種村ジュビ子の同僚。 元々周辺が見えなくなりやすい性格だった事もあり、ワーカホリックを拗らせた結果エラーに付け込まれ暴走してしまった(公式コミックでの示唆によれば、どうやら昇進したかったらしい)。 経緯が経緯だけに悪神姫に分類されたりする事はなく、事件後無事に夏休みを取れた様子。 ミラージュ・シリーズ レイドボスバトル(エラー編)に登場するレイドボス。エラー達を束ねる存在。 Naked素体をベースに数多の神姫用武装を寄せ集め、さながら阿修羅像のような外見に構築した武装を携える。 複数種の個体が存在し、それぞれカラーリングや手持ち武装等、果てはアクティブスキルに至るまで微妙な差異を持つ。 ホワイトミラージュ(第三回/第六回前半) ブラックミラージュ(第三回レア枠/第四回/第六回前半) ナイトミラージュ(第四回レア枠/第五回) サマーミラージュ(第五回レア枠/第六回後半/第七回レア枠) オータムミラージュ(第七回/第八回レア枠) バニーミラージュ(第八回/第九回レア枠) フレッシュミラージュ(第九回) なおサマーミラージュ以後、スタンする毎に武装を少しずつ除装していくようになったが、総合戦闘力の変化は一切ない。 ハナ 花型ジルダリア。レイドボスバトル(第四回)に登場した、花屋のアルバイト神姫。 本当は自分もサボりたかったらしいが、迫り来るエラーを前にプレイヤー側の神姫達と共闘する。 ちなみに公式コミックでは同型の「ジル」が存在するが、ゲーム中には出てこない。 イバラ 花型ジルダリア(リペイント)。レイドボスバトル(第四回)および復刻(第六回)に登場したレイドボスで、ハナのバイト仲間。 「仕事を全力でサボりたい」というだけの理由で、エラーと結託していた困った神姫。 その後こってり絞られ、かつハナやプレイヤーの神姫達とゲーセンでたっぷり遊んだ事で、エラーとは手を切れたようだ。 ユメ 悪魔夢魔型ヴァローナ。レイドボスバトル(第五回)に登場した、ご近所神友マスターの神姫。 アラーム機能の不調を解決すべく、迫り来るエラーを前にプレイヤー側の神姫達と共闘する。 ドロシー 悪魔夢魔型ヴァローナ(リペイント)。レイドボスバトル(第五回)および復刻(第六回)に登場したレイドボス。 お寝坊なマスターのためご近所神姫達のアラーム機能に干渉し、エラーと結託していた困った神姫。 その後神姫管理委員会に厳重注意を受け、マスター共々早起きすると共にエラーとも手を切った模様。 ストラ 天使コマンド型ウェルクストラ(リペイント)。なにげに共闘するNPC神姫達の中では初のリペイント神姫である。 レイドボスバトル(第七回)に登場し、オフラインレイドストーリーの4戦目では行き掛かり上レイドボスも務めた。 (当初は記憶を失った状態でプレイヤーたちに保護されたのだが、当該バトルでは悪神姫にコントロールされてエラーと共に暴れ回ってしまったため) ちなみに本来のマスターはコーヒーを好むキャンパーであるらしく、コーヒーを淹れるのが得意だという事を思い出したのをキッカケとして無事記憶が戻った。 悪神姫 天使コマンド型ウェルクストラ(リペイント)。レイドボスバトル(第七回)に登場したレイドボス。 ストラと同型機なので分かりにくいが、当該オフラインレイドストーリーの9~10戦目及びオンラインでのボスはこちらの方である。 悪いマスターの下でエラーを利用してはぐれ神姫を操り不法に働かせていた他、神姫誘拐にも手を染めていた。 ただし、その「悪事」の詳細および倒された後の処遇、そして個体名は一切不明。 鎧原フォスター 騎士型サイフォス。レイドボスバトル(第八回)および第九回に登場した、神姫NET管理局ネットワーク課のネットワーク担当神姫。 日頃からハードワークが多い職務に身を置いているためか、非常に強く頼れる存在だが、対ボス戦では手数不足に陥りやすい。 ちなみに本名は2023/04/01の公式キャンペーン「エルプリルフール特別号」で、剣崎のそれ共々判明した。 剣崎フェスター 騎士型サイフォス(リペイント)。レイドボスバトル(第八回)に登場した、鎧原の姉にしてレイドボス。 嘗ては神姫NET管理局品質管理課に所属し、ネットワーク品質を管理。その過程で種村ジュビ子の仕事を手伝ったり、闇神姫事件においても最前線で戦ったり…と真面目に働いていたのだが、いつしか悪堕ち。事件解決後は神姫NET管理局に連行されていった。 バリバリの武闘派な一方でうさぎ好きという一面もあり、その立場を利用して入手したミラージュ・シリーズのデータからバニーミラージュを造り上げた可能性が指摘されている。 ちなみに第九回でも懲りずに脱走、「漆黒の戦姫」副長として悪事の片棒を担いでいる。 ちなみに「剣崎」といえば特撮作品「仮面ライダー剣」の主人公の苗字だが、ルラギラレる方だったあちらとは逆に此方はルラギる方である。 甲季 侍型紅緒。レイドボスバトル(第九回)に登場。神姫NET管理局のエラー討伐アルバイト神姫。 ジェムバトルランキングの上位チーム「漆黒の戦姫」に入る事を志しており、そのための鍛錬目的でエラーを討伐している。 プレイヤー神姫の助けを得つつ、入団試験を受ける事になるのだが…… その「漆黒の戦姫」こそは、一連の事件を引き起こす「悪神姫」達の巣窟であった、というオチがついてしまった。 刀華 武士型紅緒(リペイント)。レイドボスバトル(第九回)に登場した、ジェムバトルランキング上位チーム「漆黒の戦姫」リーダーにしてレイドボス。 実は剣崎と結託し、はぐれ神姫を積極的にメンバーに加えて勢力拡大を図っていた。これは悪神姫を増やす結果になるらしいのだが、当の彼女達自身は純粋かつ真面目に「はぐれ神姫の保護」を謳っているので、なお始末が悪い。 事件終結後は、剣崎共々「悪神姫」として神姫NET管理局に連行されていった。 ノララーフ 悪魔型ストラーフMk.2。公式コミックでは常連だがゲームには出てこない。 てんの店に良く遊びに来る、ポーカーフェイスでハードボイルドなノラ神姫。 大体のトラブルを解決してくれるらしい。 ジル 花型ジルダリア。公式コミックにのみ登場(ゲーム中には別個体ことハナが登場している)。 ブタグッズ、特に「神姫をダメにするブタクッション」を愛用しているらしい。 ちなみにこの名前、巷ではジールベルンにも付けられている事が多い。 ラズちゃむ エレキギター型ベイビーラズ。公式コミックにのみ登場。てんの被害者 とはいえ、ほとんどが起動前で寝ている状態での出番だった…。 エウエウ セイレーン型エウクランテ。公式コミックにのみ登場。 いつも元気一杯だが、何らかの(おそらくはノララーフ絡み?)復讐心に燃えているらしい。 ちなみにシーズン1の頃、ジェムバトルにおいて「なぜか緑CPUの復讐心が高い」と言う現象が稼動当初から確認されており、修正を重ねてもなかなか収まらなかった…という経緯があったり。 藤田フブルン 忍者型フブキ。初出は2022年4月1日の「エルプリルフール」告知で、ポニーテールに白ビキニにて魅惑の姿を披露した。 その後毎年04/01の同告知で、サブモニターにメッセージを出していた様子(開催されなかった2024年も含む)。 果たして、ゲーム本編に現れる事はあるのだろうか……? コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/198.html
眼前に神姫達が迫る。始めた作業は継続しつつジェネシスへ説明を始める。 「お前の攻撃データを改竄した。攻撃を当てればそこからウイルスコードが侵入し、 俺達とリンクする」 「相手のコンピュータからは消えたように見える筈だ。コレで洗脳から解放できる。 一時凌ぎだけどな」 めまぐるしくキーボードを叩きながら、ジェネシスへ指示を下す。 「了解です。」 「それと、一機一機回収してる時間の余裕がもう無い。リンクを経由して一緒に 連れ出す。その為には機体を機能停止させる必要が有る」 「人間でいう鳩尾の位置だ。エネルギーラインの集中位置がある。 バイザーにデータ送るぞ。ここを切断すれば無傷で神姫を止められる。 いいか、一撃でここだけを刺し貫け」 ジェネシスのバイザーにヒットポイントの位置データを転送。 ジェネシスは位置を確認し頷く。 「安心しました。いつもの貴方で」 「凹むのは後だ。その話はするな」 「頼りにしてます」 僅かに笑んだ気配のある彼女の声が、緊張をほぐしてくれる。サンキュ、相棒。 数秒置かず、神姫達の只中へ突っ込む。 最初に襲い掛かって来たのは先程のハウリンタイプだ。 「ジェネシス。システムを近接戦闘に移行」 「了解」 可変アーマーが跳ね上がり、ハウリンを弾き飛ばす。 展開したアーマーがフレキシブルアームごと後方へ移動し、折り畳まれて スラスターウイングを形成する。尾部のアーマーがサイドに持ち上がり展開して サブウイングとなって…高速格闘形態へ。 ウイング内に仕込まれたサバイバルナイフをクローデバイスで取り外し、 その手に握り込む。 もう片方のクローでハウリンを掴み、こちらへ引き寄せて。 「大丈夫…痛くはしません」 ドッという鈍い音と共に正確にその胸をナイフで刺し貫く。 停止したハウリンを降ろせば、周囲を取り囲む神姫達。流石に数が多い。 クローユニットを180度回転して逆方向に装着したビームユニットからサーベルを展開。 同時にドラグーンを射出して駆け出す。 ジェネシス自身が前方の1機を、後方の6機を至近まで接近したドラグーンが討つ。 一応、ジェネシスのビーム兵器には全てエネルギーキャップを付けてある。 短時間ならどの兵器からでもビーム刃を出せるのだ。 そこへ降り注ぐ攻撃から倒した神姫を突き飛ばして、自らも上空に避ける。 「容赦ねぇな。ま、操られてるんだし当然か」 「だからこそ、これ以上彼女達が傷を負う前に止めねばなりません」 味方を倒されても躊躇無く攻撃を加えてくる神姫達。回避行動を取りつつ、その要領で 次々と撃破していくと例の巨大神姫が接近してくるのが見えた。 神姫達の迎撃をドラグーンに任せ、巨大神姫へと飛び立つ。 アレとの戦いに他の神姫は巻き込めない。 迫る巨大神姫に先制攻撃を掛ける。これでウイルスが効けば儲けモンだが勝算は薄い。 なぜならアレは恐らく… 「よぉ、Gさんよ。初めましてだなぁ?攻撃しても無駄だぜ? コイツはオレが直接操ってるからなぁ。サーバーには依存しねぇ」 巨大神姫の蛇の様な頭部。その目の部分が点滅し、音声を再生する。 装甲も今までの比じゃねぇのか傷一つ付いていない。 「やっぱ初めてか。オレが今まで潰した連中と比べて大分ザルいぜアンタ。 その分卑怯くせぇけどな」 皮肉たっぷりに言い放ち、巨大神姫を調べる。 神姫部分が露出してれば話は早いが…そう簡単には行かせてくれないか。 「何とでも言ってくれや。取引だ、Gさん。オメェこのまま俺達に捕まれ。 大事な神姫を壊したくないだろ?それに…」 巨大神姫の頭部カバーが開く。その中に組み込まれていたのはストラーフ。 …しかも見覚えのある、だ。 「コラン…」 苦々しく呟く。それは、オレが修理を頼まれたあのストラーフだった。 「何だ知り合いかよ?なら話も早いってモンだ!アンタが抵抗すればこのストラーフ、 タダじゃすまないぜ?」 「こっちも高い金掛けてこの戦闘用神姫を組んでんだ。ランカー神姫まで用意してなぁ。 こんなトコで壊したくはねぇのよ」 人質ってワケか。どこまでも腹の立つヤロウだ。 このデカブツを破壊して頭部から彼女を救い、彼女にダメージを与える。 直接接触しない限りは攻撃は無駄。 …手が無いわけじゃねぇが。 (ジカンヲカセゲ) ジェネシスのバイザーにメッセージを送信する。 「…アンタの目的は?」 男に話しかけながら、キーボードを打ち続ける。デカい入り口を開ける為に。 ジェネシスも無言のままウイングをアーマーに変形させて防御姿勢を取る。 男の神姫がジェネシスをいたぶる様にその巨大な身体をぶつけて攻撃を開始した。 まるでお手玉の様に中空で攻撃を受け通けるジェネシスの顔が悔しさと痛みに歪む。 「目的ぃ?目的なんざ金に決まってんだろ!Gの神姫とソレをヤッた神姫となりゃ、 とんでもない額で売れるぜ!ハハハッ」 「手間ぁ掛けやがって!頂く前に少し遊ばせてもらうぜ、見敵必殺の神姫サンよぉ!」 「下衆野郎が…」 「口の利き方には気をつけろよ、Gさん。アンタの神姫が痛い目に合うぜ?」 巨大神姫の尾のブレードが、ジェネシスを地面に叩き付ける。 地に伏したジェネシス目掛けてそのブレードが何度も何度も振り下ろされた。 「大した事ねぇなぁ?おっと、手が出せないんだっけか、悪ぃ悪ぃ」 下品な笑い声を上げ、男が楽しげにこちらを挑発する。 そして巨大神姫が、その身体で蛇が獲物を絡め取るようにジェネシスに巻きつき、 締め上て来た。 「ぐっ…」 苦痛に耐え、呻き声を上げるジェネシスを見て、男は満足げに言い放った。 「オラ、Gさんよ。アンタはこの神姫を置いてさっさと消えな。これに懲りたら少しは 利口な生き方ってモンを覚えるんだな」 …この手の手合いは自分の優位を実感した瞬間、どうしようもなく隙が出来る。 小悪党の不文律か。 目の前にちらついたお宝に目が眩み、オレを無力と思ったのが運のツキだ。 終わったよ、準備。 「なぁに。利口になるのはアンタの方さ、小悪党!」 最後の構文を書き込み、エンターキーへ指を叩き付ける。 サーバー世界の雲に穴が開き、新たな入り口が開く。 「ジェネシス、待たせたな!やっちまえ!」 「アーマーユニット、オールパージ!」 オレの呼びかけに応えたジェネシスが叫ぶ。 アーマーが強制排除され、拘束を吹き飛ばしたその勢いのまま天へと跳んで。 同時、天空より飛来した戦闘機に飛び乗った。 「な、なんだこりゃっ!?」 状況を理解していない男の叫びが空へと木霊していた。 ジェネシスが乗っているのは、彼女の最強の剣だ。アムドライバーシリーズの ネオボードバイザー、通称ソードダンサー。 そいつの推進系とコネクタを改造し、銀に塗ったMMS用随伴戦闘装備。 その名は、ソードダンサー改「リボルケイン」 「モードブリガンディ!」 ジェネシスの咆哮に合わせてリボルケインが変形する。ジェネシスをその身に納め、 巨剣を構えるその姿はまさに剣帝。 「必殺!リボルクラッシュ!」 雄叫びと共に全推進系を使い、超高速で相手を貫くリボルケインの必殺技が巨大神姫の 首とその下を切り離す。 吹き飛ぶ頭を掴み、頭部カバーを弾き飛ばして、ジェネシスを分離。 ここまでを一呼吸で行なう。 リボルケインから分離したジェネシスがその内部に眠るコランを引き剥がし 胸を貫いた時、男はようやく現状を認識した。 「なっ!なぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 訂正、展開に追いついてないわ。このオッサンの頭。 「チェックメイト。とでも言えば通じますか。貴方の負けです、犯罪者さん」 コランを抱くジェネシスが、再度飛行形態へ変形したリボルケインの上で勝利宣言する。 「あ、ありえねぇぇぇぇっ!?」 叫ぶ男。負けた事は認識したらしい。ともあれ。 「ジェネシス、アーマーパージはキャストオフだ。基本だぞ?」 台詞について突っ込むオレ。 「ああ、気付きませんでした。失礼」 和やかに返すジェネシス。 「何の話じゃぁ!おまえらぁぁぁぁっ!?」 興奮状態のオッサン。 「何だ!?何をしやがった!?改造ボディのランカー神姫の反応を超える動きだと!? どんだけカスタマイズしてんだ!?」 大声で捲くし立てるオッサン。オレが皮肉の一つも言ってやろうと口を開いた時、 先にジェネシスの声が耳に入った。 「武装神姫は一人で戦っているんじゃない」 「信じ、信じてくれるマスターと共に戦うからこそ、スペックだけでは測れない戦いが 出来る」 「共に支え、胸を叩き、背中を押す。その声と心が共にあるからこそ、戦える」 「神姫をパーツとしか思わず、その心を、誇りを汚す愚か者になど… 武装神姫は負けない!恥を知りなさい!」 …言う言う。オレの心もすっとした。流石は俺の相棒様だ。 「くそっ!人形風情が何を人間様に説教たれてんだ、コラッ! 勘違いしてんじゃねーよ、機械の分際でよぉッ!」 男も負けじと吠える。台詞まで小悪党だ。どこまでも救えねぇ。 「そんなんだから負けんだよ。お前が言う機械にも解る事が解んねぇんだから、 お里が知れるぜオッサン」 嘲笑を込めて言ってやる。そして止めに一言。 「ま、負け犬の遠吠えってヤツぁいつ聞いても滑稽だな。二度と出てくんなよ三下、 出てくるたびにこうなるぜ?」 「うがぁああああああっ!!!くそっ!こうなりゃデータなんぞ関係ねぇ!死ね!!」 そこで男の通信が唐突に途切れる。いや…通信だけではない。 世界が、崩壊を始めていた。 遥か彼方から、凄いスピードで世界が崩れ、ただの無機質なデジタルデータの流れが 剥き出しになっていく。 「あのオヤジ、ヤケになってサーバーの電源無理矢理抜きやがったな」 この現象も悲しいかな経験済みだった。ヒステリー後の行動なんてそんなに多彩な パターンは無いらしい。 「UPSじゃ持って数分か。データリンクしといてよかったぜ。ずらかるぞ」 「マスター、リィリィを回収しないと!」 慌てて言ってくるジェネシスに、ニヤリと笑いながら告げてやる。 「最初にリンク張っといたよ。問題ナシ」 「そうですか、良かった…」 胸を撫で下ろすジェネシス。うん、なんか今オレ出来る男っぽくね?はっはっは。 「マスター…この捕縛プログラムはどうなるんでしょう?」 出口へ向けて神姫達を送り出しながら、ジェネシスが聞いて来る。 「電源抜いたくらいで壊れはせんだろ。UPSも動いてるし、後は警察がやってくれるさ」 「そうですか…」 俯くジェネシスが、パージしたアーマーを身に纏う。はて?何で今更アーマー着ますか。 「マスター確か今の私の攻撃データ、ウイルスが仕込んであるんでしたね?」 「…おう。ええと、ジェネシスさん?」 声音が低い。これはなんか怒ってる時の声だ。 「私が攻撃すれば…壊れますかね、この不愉快なプログラム」 にこやかに笑みつつ、屋敷を指差す。うひぃ。 「いや、時間無いよ?神姫達の転送も終わったしさっさと離脱しないと…」 「マスター…Gという名の由来を聞いた時、機械の英雄達の称号とおっしゃいましたね。 そして、私の装備にはGの遺伝子が受け継がれていると」 オレの呼び掛けを遮り、ジェネシスが語る。 ああ、確かに。 ガンダムもグレート合体もゴジュラスもギャラコンも、ロボットヒーローにはGの名は 付き物だ。 彼らの正義にあやかる為に、オレはこの稼業を始めた時Gを名乗った。 「この状況を打破出来るGを、私は知っています。そして、その力は私にもある」 再びアーマーが変形を始める。近接戦闘形態へ。そして、さらにウイング内に仕込んだ そのGのキャノンが、両腕のビームユニットが、腰のヴェスバーが。そして周囲には ドラグーンが。全砲門がプログラムへ向けてその牙を剥こうとしている。 「そのあまりの力から、やりたい放題…フリーダムの名を冠した伝説のG! その力を今こそ!!」 「いや、その説明俺の主観だし!証拠のプログラム壊したらたっちゃんに怒られ──」 慌てて止めようとしたオレの言葉をも吹き飛ばすように、ジェネシスの ハイマットフルバーストが電脳世界に止めを刺す。 白く染まり崩壊するその世界の輝きは、なんだか色々な物を忘れてしまいたくなった。 意味は無いけど南無。 「畜生、畜生畜生ッ!」 見事にGに出し抜かれた主犯格の男は、怒りをコンピューターにぶつけていた。 「あ、アニキ、落ち着いて!マジでデータが壊れちゃいますよ!」 慌てて取り押さえるその部下達。 「どうせGのヤロウに持っていかれた後に決まってるだろが!畜生、あのオタク野郎、 覚えてやがれっ!!」 力任せに蹴り飛ばされたテーブル。その上に乗っていた目覚まし時計が壊れ、 時を止めて転がった。 午前1 00時。 同時、インターホンが鳴る。 「誰だ、こんな時間に…?」 部下の一人がドアを開ける。其処に立っていたのは、黒手帳を示した男だった。 「…警視庁公安MMS犯罪担当3課、地走 達人。階級は警部だ。お前たちを 電子取引法違反、違法賭博、器物強奪etc等の容疑で逮捕する。コイツが令状だ」 あまりといえばあまりの事態に、男達が目を白黒させる。そして数秒。 「テ、テメェーッ!」 何がテメェなのか解らないが、パニック状態の男達が襲い掛かる。 手帳を仕舞う余裕すら見せ、地走警部が後ろに下がり一人目に当て身投げを行なう。 身体を半回転させドアを塞ぐように相手を投げれば、それに二人目三人目が 巻きこまれて倒れ。 「手間を掛けさせるな。公務執行妨害まで付くぞ?」 ドスの効いた声で告げる。警部というよりは殺し屋のようなその声に、主犯格の男が 腰を落とし…逮捕劇はあっけなく幕を閉じた。 「警部、証拠品の搬入先なんですが…」 「ああ、データ解析はKMEEの今米さんに頼んである。そっちに運んでくれ」 「はっ」 敬礼して持ち場に戻る若い警官を見送り、地走警部は携帯端末を操作した。 事件から数週間。結局あの事件は新聞の三面記事にすら載る事無く、静かに終息を迎えた。 それだけ、今の世の中神姫犯罪が多いってコトだろう。ブームの暗黒面だ。 だが、事件の当事者には良くも悪くもその記憶は残り続ける。 例えば、あのストラーフ使いの少年の様に。 ・ ・ 「本当に、有難う御座いました」 少年が深々と頭を下げる。その腕には意識を取り戻した彼のストラーフ、 コランがしっかりと抱かれていた。 「おう。ホント苦労したぜ。修理代はずんで貰わねぇとな」 カウンターに両腕を預け、軽口を零す。 「はい、貯金、全て下ろして来ました…いくらでもお支払いします」 「ほぉ、そいつはいい心がけだ。そんじゃ、コイツの代金を払って貰おうかい」 神妙な面持ちの少年に請求書と紙袋を手渡す。 請求書を読み上げた少年が不思議そうに顔を上げた。 「えっとこれ保守部品ですよね…?ハードの故障だったんですか?」 「いんや。正真正銘ソフトの問題」 一拍置いて言葉を続ける。 「ホント大変だったんだ。二度とゴメンだ。つーわけで二度目は無いぞ少年。 今度同じ事が起きても修理はしねぇ」 「だから、そのパーツでしっかり整備して頑張んな。強さってのを見つめなおす為にも」 「店長さん…」 一言そう呟く少年に頷いて見せる。 「裏にゃ裏の意味がある。否定はせんよ?でも、あそこは…なんつーかな、 普通の武装神姫にゃ似合わない場所さ。解るだろ」 「はい…」 「…だから、お前さんの求める強さはあそこには無ぇ。人に頭を下げるぐらい 大事な神姫なら、日の当たる場所で一緒に歩いてやんな」 少年が、少し俯いて無言になる… やがて、顔を上げた少年は「色々、お世話になりました」とだけ言って、会計を済ませた。 「きっと、彼女と胸を張ってまた会いに来ます」 「楽しみにしてるよ。有名になったらウチの宣伝もしてくれ」 手を振り見送る俺に何度も頭を下げながら、少年は帰っていった。 ・ ・ ・ 「カッコつけすぎたかなぁー」 思わず思い出して背筋が寒くなる。 クセとはいえ、クサ過ぎるだろうあの台詞は。病気だ。 「でも、カッコよかったですよ」 横から声を掛けるジェニーを見る。教室も終わり定位置…レジ横の特製クレードルに 鎮座する大明神様は、レジ兼用のデスクトップ端末からネット中のご様子だった。 「いや、何も言ってないんすケド」 「どうせ自分の勢い任せにいっちゃった台詞でも思い出してたんでしょう?」 恐る恐る聞けば、実に的確な突っ込みが返って来る。 エスパーか君は。 「長い付き合いですから」 「いや、モノローグを予測して答えるな、マジ怖い」 そんな遣り取りの後、ジェニーが端末のモニタを示して見せた。 「頑張ってるみたいですよ?コランさん」 見れば、強敵相手に善戦し、僅かながらポイントを上げたコランの姿が映し出される。 「ま、元々腕はよかったんだろし。頑張って欲しいねぇ」 ニヤケる顔を見られないようにジェニーとは逆の方を向く俺の耳に、 彼女の僅かな笑い声が聞こえた。くそう。 「で、私のボディは何時買って貰えるんですか? そろそろ今米さんから報酬が届く頃では?」 「そんな予定はありません」 定例の突っ込みに定例の言葉を返す。 「…電話してたのは聞いてます。報酬、私にも権利はあると思いますけど?」 ジェニーの冷静さを維持しようとする声に、誤魔化すのはムリと判断して真相を告げる。 「あのなぁ、いくらなんでも現金なんて貰えるワケないだろ。企業的に」 「というわけで、12月発売の3機種各6カートン。コレで手を打った」 「な…な…なっ?」 「ウチの店の規模じゃ破格の入荷数だぜ。震えるぜハート、燃え尽きるほどヒート…」 「じ、じゃあそこから一体素体を都合して下さいよ!」 「店の商品に手を出すなんて商売モラルがなってないぜ、ジェニーさん」 チッチ、と指を振る俺をジェニーが睨み付ける。心なしか肩が震えて居るような。 「この、金無し!根性無し!甲斐性無し!うああああん!マスターの馬鹿ーっ!」 走り出したいのかクレードルから分離しようと身を捩るジェニーさん。 首しか動いてないよジェニーさん。 「まぁまぁ…大明神様落ち着いて」 「ああっ!もうっ!解りました、それならこっちにも考えがあります!」 こちらをキッと睨むジェニー。やおら表情を作ってもじもじと呟く。 「もう…夏彦さんの意地悪」 グハァッ…!大ダメージを受けた俺は思わず突っ伏した。 「やめろ…っ!オレは小学校中学年以来、女に名前で呼ばれた事が無いんだ!」 早鐘の様に鳴り響く胸を抑えて何とか立ち上がる。くそう、エグい手使いやがる。 「ふふ…女扱いは悪い気しませんけど、許しませんよー。夏彦さ~ん♪」 「ぐぁぁぁっ!黄色い声を出すなぁっ!?」 「純情ですねー、夏彦さんは」 「謝る、謝るからヤメテーッ!?」 そんなコントを聞いてか聞かずか、自動ドアを開いて入ってきたお客さんが遠慮がちに 声を掛ける。その肩には見覚えのあるマオチャオタイプが手を振っていた。 「あの…ここ…武装神姫のお店、ですよね…?」 オレもジェニーも、すぐに切り替えて営業スマイルを浮かべる。 一瞬だけ視線が合って、それがお客さんの方を向き… 『いらっしゃいませ!』 ホビーショップ エルゴは、今日も明るく営業中である。 NEXT メニューへ
https://w.atwiki.jp/busoushinkibc/pages/16.html
ここは、新たにバトルコンダクターを始めるマスターがスムーズに始める為に必要な情報のみを記すページです。 詳細な攻略情報を集めたい方は、wiki内の他ページもご覧下さい。 ※実際のゲーム画面や操作等の詳細な説明は公式サイト、操作マニュアルに纏められているので、そちらも併せて参照して下さい。 ゲームでの疑問のあれこれは → よくある質問 武装神姫に関して武装神姫って何?知らなくても遊べる? ゲームプレイに関してとりあえず何を準備したらいい? e-Amusement passってどこで手に入る?他のカードじゃダメ? 初回プレイの注意点 大まかな初回プレイの流れ 初回プレイ後の注意点 デジタル神姫って? 神姫をカード化したい! 2回目以降のプレイの流れ 神姫のレアリティは?個体差はある? 高レアリティ/個体値が高いカード以外はゴミだったりする…? もしかしてめちゃくちゃお金かかる? プレイできる店舗はどこ? 武装神姫に関して 武装神姫って何?知らなくても遊べる? 武装神姫は2006年からKONAMIが発売し、現在はコトブキヤにてプラモデル化企画が進行中のオリジナルアクションフィギュアシリーズです。 「2036年に人間の日常生活のサポート用メカ兼バトルホビー玩具として発売された小型ロボット」という基本設定があるだけで、基本的には個別の背景や設定があるわけでもありません。 特にアニメが元ネタとか、ゲームやってないと~ってこともないので気になったら即100円投入ですよ!ますたー! ゲームプレイに関して とりあえず何を準備したらいい? 初プレイに必要なものはe-Amusment Passと呼ばれるICカードとチュートリアル用の100円玉1枚のみでOK ICカードを介して初めてプレイする時のみチュートリアルモードがプレイ可能なので、まずはそちらで操作を学ぼう! かなり複雑な部分もある上にチュートリアルはかなりの速度で進むので公式サイト、操作マニュアルである程度の予習をしておくことを推奨します。 e-Amusement passってどこで手に入る?他のカードじゃダメ? e-Amusement Pass対応ゲームを設置しているアミューズメント施設に設置されているカード販売機にて購入することが可能。武装神姫の筐体そのものからは購入できないので注意! 武装神姫設置店舗には絶対どっかにはあるはず…。 値段は300円。余談ながらAmusement ICマークがついてるものであればネシカだろうがバナパスポートだろうがなんでもいいです。 詳しくはコチラ 初回プレイの注意点 初回プレイでは ICカードに登録する4桁のパスワード(新品のICカードを使用する場合のみ) 自身のマスター名 自身の誕生日 自身の性別(武装紳士or武装淑女) 自身の職業(学生or社会人or武装貴族) の登録を行います。マスター名等は事前に考えておきましょう。 またICカードに紐付けられるパスワードは今後プレイの度に要求されます。覚えやすいものにしましょう。 大まかな初回プレイの流れ 基本はゲーム画面に沿いますが… 初回プレイでは最初に神姫カードを読み込ませますが、その際チュートリアル用の神姫を借り受けて使用します。 その後、神姫ハウスへ移動。各神姫にタッチしてコミュニケーションを取ったり、キャッキャウフフ ↓ カスタマイズ画面で武装選択 ↓ チュートリアルバトルへ ↓ 最後にランダムでデジタル神姫を無料で一体プレゼント という流れになっています。デジタル神姫に関しては後述。 初回プレイ後の注意点 初回プレイを終えたら、必ずe-amusementサイトにてICカードデータを登録しましょう。 カードを紛失・破損した場合でもデータを新しいカードへ移すことが可能になります。 仮にあなたの使用しているICカードがバナパスポートカードやネシカだったとしても、KONAMIのゲームデータはe-Amusementサイトに登録しなければ復旧できません。 例えばバナパスを使用した場合、バナパスポートカードサイトにのみ登録してもバンダイナムコ関連のゲーム以外はデータ移行が行えないので注意してください。 デジタル神姫って? デジタル神姫は1枚のICカードに最大30体まで保存しておけるデータ上の神姫です。 デジタル神姫はそのままではチュートリアル用の貸し出し神姫よりも弱い上に親密度や経験値も獲得できないので、実用のためにはカード化が必要です。 「カードコネクト」筐体にてカード化することができ、その際に神姫のレアリティやステータス、個体値、胸の大きさが決定します。 神姫をカード化したい! カードコネクト筐体にICカードをかざすことでデジタル神姫をカードとして発行が可能です。 ICカードを読み込み後、メニューを下方にスクロールして「武装神姫」を選びましょう。 その中からカード化する神姫を最大5枚まで選択し、カード化する枚数×100円を投入することでカード化可能です。 余談ですが、このカードコネクトの印刷にはめっっっっちゃくちゃ時間がかかります。 目当ての神姫がある程度揃ってしまえば、カード化に並ぶ必要もなくなるのでデッキが完成するまでの試練だと思って耐えましょう…。 カードコネクト上ではデジタル神姫を20体しか読み込めないため、20体以上のデジタル神姫がいる場合は神姫ハウス→神姫カード整理からカードコネクトに送信する神姫を予め選択しておく必要があります。 この時、溜め込んだデジタル神姫を消去しておくことも可能です。30体以上のデジタル神姫は持てないので枠が上限いっぱいになりそうな時に活用しましょう。 2回目以降のプレイの流れ 2回目以降も基本はチュートリアルと変わりませんが、神姫ハウスで神姫と触れ合うことでバトル前に親密度とステータスを若干上げることが可能になり、バトルでは全国対戦もしくはオフラインバトルのいずれかが選択可能になります。 また、全てのゲーム終了時に神姫ショップが開放され、ランダムでデジタル神姫を獲得することが可能になります。(いわゆるガチャ) その際、「1体獲得or5体獲得or獲得しない」が選択可能で、獲得数に応じたクレジットを追加投入する必要があります。 神姫のレアリティは?個体差はある? 神姫のレアリティはUR、SR、R、Nの4種類。 神姫カードの右下にはそれぞれ1~5個のステータスアイコンが記載されており、その数が多いほど若干ステータスが高いです。 ついでにカード裏に胸のサイズボディサイズの記載があります。こっちのが重要だよなぁ? 高レアリティ/個体値が高いカード以外はゴミだったりする…? 本ゲームには編成コストシステムがあり、最大7。URは4、SRは3、Rは2、Nは1がコストとして割り振られています。 その関係上、URを使用する場合は必ずNと組まねばならず、URやSRとは組むことはできません。 SRを使用する場合でもSR、SR、NもしくはSR、R、Rが最大の編成になります。 高レアリティの神姫は確かに強力ですが、被撃破時のジェム喪失量が異様に多く、決して「URが入っている編成が至高」といえるようなバランスではありません。 おまけにこのゲームはNがかなり出にくいため、様々なレアリティの神姫を確保しておくことを推奨します。(特に推しはURとSRどっちも欲しいよね…。) また、個体値は確かに若干の差はあるものの個体値アイコン5つのものと個体値アイコン1つのものでは5~10と基礎ステータスに誤差程度の差しかなく、加えて個体値アイコン1つのものの方が伸び率はいいようになっています。 あったらラッキー程度のものなので、それほど気にする必要もないでしょう。 もしかしてめちゃくちゃお金かかる? いわゆるガチャゲーなのでゲームを始めたての頃はすごい勢いで金が吹っ飛びます。 100円で遊んで、500円でガチャ引いて、500円でカード発行して…のループになること必至です。 しかしながら、ある程度カードが揃ってしまえば基本料金の100円だけで遊べるゲームになります。 加えて、全ての神姫のフルコンプを目指すわけでもないなら、基本はデジタル神姫として所持するだけで目当ての神姫のみカード化する方向で資金を貯めておくことも可能です。 また、カードとICは紐付いていないので、ガチャがイヤすぎる!という場合は「だからまおが言ってやったのにゃ~」などを用いて予め望みのカードを入手してからスタートしてもいいでしょう。 胸のサイズにこだわると死ぬぞ プレイできる店舗はどこ? 公式サイトの神姫センター一覧を見よう。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2848.html
日曜。大抵の人は休日としてこの曜日を満喫するだろう。 ある者は家でのんびり、ある者は気晴らし外出、あるいは他の事…? まぁ、それは人それぞれに任せるとしよう。 ちなみに俺、『獅子堂 竜馬』の場合は秋葉原へプラモ物色しに行く。自転車で。 (むぅ…迷う) 俺はそんなことを思いながらアキバの某量販店にてプラモの品定め。 しかし、たとえいざ決まったとしてもなかなかレジに向かえないのはいつもの事だ。 ガチで欲しいと決めた奴はすぐ購入に移れるが、ふらりとやってきてピンときたのを手に入れるときはいつも足踏み… 「…別の店に行ってみよう」 結局保留だよ。 俺のアキバでの探索場所は専ら量販店か中古ショップだ。あとア○メイト。 メイド喫茶?行かねぇよ高いらしいし。 思えば、高校に上がってからアキバに来るようになったな… 資金は使い道が見つからないまま貯まっていったお年玉やお小遣い、あと偶然拾ったりする小銭。 多少デカイ買い物する位はあるが、なんか怖くて迂闊に使えない… ちょくちょくガ○プラとか買ったりはしているが、まだ有り余ってるよ。 郵便局預けによる利息で微妙に膨れているから、PCいけるんじゃないかというほど。 中古ショップに寄ってみるも、目ぼしい品は今のところ無い。 ある日に行ったら置いてあった品が、次の週に行ったら消えてる、なんてことは中古ショップではあることだ。頻度は知らんが。 それでも一昔前のプラモを手に入れたことはある。確かア○シマの金ピカガ○ファ○ガー(ゴル○ィオン○ンマー付き)だったはず。 そんなこんなで中古ショップを出た俺は、気分的にふだん行かない店に向かってみることにした。 プラモかフィギュアの売ってそうな店を探していると、ある店に目がとまった。 ほとんど客のいない店内を少し覗いてみると、見かけはすれど詳細はよく知らなかったものが売られていた。 店に入って「あぁ…、そういやこんなのもあったな」と心の中で頷いた。 『武装神姫』、巷で話題になってるとかいう少女型のフィギュアロボだ。 量販店などにも積まれているうえ、神姫の主、所謂『オーナー』とか『マスター』が連れ歩き、ゲーセンやら神姫センターやらでのバトルを俺も見かけるけど、高額かつ守備範囲外だったので、いつもはスルーしている。神姫センターには寄った経験無いが。 ついキョロキョロしながら店内を散策してしまうと微中年(30代後半位?)の店員から「神姫をお迎えかい?」と聞かれた。 俺は「ぁ、ちょっと眺めてただけです」と答えた。話しかけられるのは苦手なんだよなぁ…一瞬ビクついちまったし。 ちなみに『お迎え』というのは、神姫を露骨に”物”扱い出来ない神姫マスター達による『購入』の意味。 流石に退散しようかと思っていた矢先、 カチャン なんか物音が。 ちょっと訳ありで少々物音に敏感なのでつい音のした方を見てしまう。 何か落ちたのかと棚から床にかけて視線を動かす。 なんかいる~!? 入口近くの棚と床の隙間に、何か動くものが…まさか”G”じゃあるまい!?ぃやいやそれはない、明らかに硬質な音だった。 恐る恐る近づき隙間を覗き込むと… …神姫? どうやら”G”ではなく神姫がいたようだ。”G”だったらマジやばかった…苦手なんだよ、アイツ。 よく見ると、かなり損傷しているようだ。身につけてる防具が大分破損しているっぽい。 軽く手招きしてみると、怯えながらゆっくり這い出てきた。 ぎこちない動きだったが、片腕を欠損、脚を引きずるほど弱っていたためらしい。流石に絶句したよ。 回収するや否や、店員に見せてみた。 トップページへ プッチ神父『メイド・イン・ヘブン!(次話へ)』 露伴『ヘブンズドアー!(裏話へ)』
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/304.html
プロローグから時間は多少前後し、光矢は友人Fと共にホビーショップエルゴに居た。まだ彼の胸ポケットは空で、商品の陳列棚を見る目にも少々の呆れが見え隠れしている。 この日は友人Fの公式戦が組まれており、Fの提案によりライブで神姫のすばらしさを語ることに付き合うことになっていた。 「さ、始まるぞ。クリス、存分に暴れてやれ。光矢にも神姫の素晴しさを見せ付けてやれ」 『イエス、マスター』 普段はヘッドセットを着用して、周囲からの雑音を切り離し、マスターと神姫がセットになって戦うのだそうだ。しかしこの日Fは戦闘中継を光矢に全て見せるべく、ヘッドフォンなしで神姫ポッドの前に立っていた。当然、神姫の声は画面横のスピーカーから聞こえてくる。 光矢はFの横に立ち、3つ並んでいる画面の中央、一番大きなセンターディスプレイに目をやった。テロップが次の対戦カードを表示している。 サードリーグ 公式戦 フリッツ V アモーレ田中 クリス S ろべっち 制限時間制 ゴーストタウン 『GO』の文字が表示されると同時に、それまで静けさを保っていたフィールドが一気に加熱した。 砂埃を巻き上げ疾走するのはFのクリス。右は逆手にマチェット、左手にはサブマシンガンを携えたMMSで、頭部は赤いレンズのゴーグルと黒いガスマスクを着用している。頭から生えている(ように見える)細身の剣は、走る速度に比例して広報へと倒れていく。そして、そのシャープなシルエットに全身の黒系塗装が合わさり、疾走する姿は弾丸を彷彿とさせた。 それに対して相手のMMSは、同じく黒い色が特徴的なのだが、そのふいんき(なぜか変換できない)は真逆だった。 黒の生地に白のフリルがあちこちにあしらわれている布製の服をまとい、スカートはふんわりとした膨らみを保ったまま揺れている。頭部には同じくフリル付のカチューシャを装備し、ご丁寧に眼鏡までかけている。『メイド』を意識したその姿は、おおよそ戦闘とは無縁に思えるのだが、手にした黒い傘でクリスの連撃を捌く姿は確かに戦場に居る者の様子を備えていた。 初接敵の接近戦はビビアンに部があった。クリスの繰り出す連撃は尽く『傘』に防がれ、逆に相手はマチェットをいなしてはじいた後に、そのまま流れるような軌道で『傘』を振る。傘の石突の部分は通常のそれとは違い、研ぎ澄まされた刃になっている。近接戦闘を意識して改良された特別製らしい。 クリスの4度目の斬撃を避わしたメイドさんは次に、自分の背後にあった自分の背丈ほどの崩れたレンガの壁を宙返りをしながら飛び越えた。その際、ちらっと笑みを浮かべつつスカートを翻しその裾から何かを放った。 体勢を立て直したクリスが次に見たものは、目の前に落ちてくるボール状の物体。重い金属音を響かせて着地したソレは・・・ 「…手榴弾!?」 慌ててその場を離れるクリスだったが、あまりに唐突だった相手の『反撃』は完全には避け切れなかった。爆発した手榴弾はクリスのゴーグルを砕き、クリスからHUD(ゴーグル上に各種戦況データを示す機能)を奪った。 「ふざけた名前と格好のくせに、やるじゃん……」 初撃の失敗と報復に驚きと焦りを殺しきれないF。その横で光矢は初めて目にする武装神姫の戦いに魅入られ始めていた。 各所パーツにカスタマイズを施しているFの凄さは耳が痛くなるほど聞かされていた上、仮想戦闘プログラムでの画面も見せられていた。その時はまだ神姫に熱くなっているFへの軽い軽蔑があったが、ここでの対戦を見ればそのときのFの言動も理解できる気がしてきた。 クリスの攻撃をかわす相手のメイドは、以前どこかで読んだ漫画の人のようだ。レンガの壁の裏にふわりと着地した瞬間、壁に向けて傘を広げると、爆発で吹き飛んだレンガ片はその盾にはじかれて、本体には埃一つつかない。よく見ると、その傘の持ち手の部分も、通常とは明らかに違う形をしていた。傘の中に折りたたまれていたストックが開き、右の肩に押し付けられると同時にメイドさんはトリガーを引いた。瞬間、二度目の爆発が起きたような音と煙が上がった。ショットガンを花束に仕込むのと同じように、仕込みショットガンとでもいうのだろうか。先ほどの手榴弾といい、暗器をよく使う。 手榴弾によりHUDを失ったクリスは、ショットガンの射撃に反応がわずかに遅れ散弾を避けることができなくなり、やむなく背部のアームを展開し体の前で交差させその場で身構えた。着弾と同時に激しい衝撃が襲い、にわか構えの体勢は脆くも崩され、そのうえアームの隙間を縫ってきた細かな散弾が本体をも削っていく。頭の中をエラーメッセージが叫び、痛覚値が上昇していく。ショック状態にはならないものの、痛覚値を感覚値と切り離すための処理が大きくなり、長時間の戦闘は厳しくなった。 「クリス、物陰で機会を待て。相手に気づかれる前にマチェットを見舞ってやれ!」 『イエス、マスター。時間の余裕はあまりありませんし、早々に決めます』 相手のショットガンの銃声が6発目で止まったことを確認すると、砂埃に紛れて再び駆け出す。しかし、今度の方向は相手ではなくその左手側、無作為に投げ出されたコンテナが積みあがっている陰である。その際、移動の邪魔になると判断し、散弾で削られたアームを棄て去った。 相手のメイドは自らの作り出した砂煙で視界を失ったらしく、クリスがコンテナの陰に走りこんだ後も傘を正面に向けていた。 やがて砂煙が落ち着くと、メイドはゆっくりと傘を構えたまま前進し始めた。クリスの棄てたアームユニットに注意を払いつつ、周囲に気を張りながら臨戦態勢を崩さない。一歩毎に広がる視界を常にチェックしながら……12歩目に差し掛かったときに戦況が動いた。それまで息を殺し、コンテナの陰に隠れていたクリスが、マシンガンを放ちつつメイドの側面に飛び出したのだ。予想していた範囲とはいえ、右手に持った『傘』では防御が間に合わず、体勢を崩しながら後退した。 しかし、本業を接近戦に持つクリスの追撃は中途半端な間合いでは無いのと同等である。クリスは相手の体制が崩れるのを確認すると、左手のサブマシンガンを投げ捨て、代わりに左の太ももにぶら下げていたダガーを抜き取った。そのまま低い体勢を保ったまま、右手のマチェットと交差して傘に切りかかる。相変わらずマチェットは傘の幕を破れないが、左手のダガーは発熱設計になっており、紅くなった刃の触れた部分から一気に傘を切り裂いた。 仕込みショットガンの敗れたメイドはそのまま尻餅をつき、今度は反撃する間もなくマチェットの刃を鼻先に向けられた。 「参りましたわ、ギブアップです」 「…ハァ…ハァ、 中々手強い相手だったよ。アンタ」 * * * 「それを見て、君を買おうと思ったんだ」 「そうだったんですか、すみません気づかなくて……」 「いや、いいんだ。君が戦うの好きじゃないなら強要しないから」 殺風景な部屋で光矢とアーンヴァルの会話が続いていた。 初期起動からすぐ、光矢の見ていた武装神姫のアリーナ中継を見たアーンヴァル型神姫は「自分は争うのは好まない」と言ったのだ。それから二日間は、光矢はリーグのことを話さなかったが、アーンヴァルになぜ自分を買ったのかと聞かれ、今に至る。 「無理に戦うこともないしさ。今もこうしてライブ見てるだけでも……」 「……やります、マスター!」 「ボクは満足だし……え?」 それまで話を黙って聞いていた神姫は突然、声を上げリーグに参戦する意思を述べた。 「でも、この前は戦うのは嫌だって……」 「それはそうですけど……」 何故か顔を赤らめ、目線を泳がせる。手を握ったり指を合わせたり、俗に言う『もじもじポーズ』を取りながら、アーンヴァルは上目遣いで見上げた。 「とにかく!私出たいです。リーグ!その、戦うのは苦手だし、好きじゃないですけど…。ホラ、マスター、私のために武器とか色々作ってくれてますし、試し撃ちも家の中だけだと味気ないし、もしそれで勝てたら万々歳でマスターも私に何かうにうに……じゃなくて。とにかく、出してもらえませんか!?」 あまりに必死な懇願に、しかし自分のやりたかった希望を提案され、光矢は「よし、それじゃぁやってみようか」と答えた。 その翌日、リーグに参戦するに当たって神姫に名前をつける必要があることをFから聞いた光矢は、その日の夜に自分の神姫に名前を贈った。 「クラウ・ソナス。神話に出てくる光の剣で、絶対に負けないっていう由来なんだ」 その後の結果はプロローグでも触れたとおり、2週間経っても未だ勝ち星なしである。 彼らの挑戦はまだ始まったばかりである。 ~続く~
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/748.html
鳳凰杯・まとめページ ・このページは、橘明人とかしまし神姫たちの日常日記に端を発する 「鳳凰杯」のインデックスページです。 ・なかなかリアルタイムで乗っけていけないため、執筆者のみなさまで、 随時更新していっていただけると助かりまっす~。 @けものや 鳳凰杯 詳細設定 鳳凰杯本戦 トーナメント表 開催前日まで。。。 ぷろろーぐ 祭りの前の楽しさよ (以上、神姫の父) 燃ゆる聖杯の誘い──あるいは姫君 特殊戦闘訓練──あるいは神姫無双 前半/後半 晴れの舞台へと──あるいは内職業 (By 妄想の人) 鳳凰杯編Ⅰ 「蒼い翼」 (byぬえ) バレットエンジェル1 (幻の人) 「それは盛大な」「祭」 (チアキの人) EXECUTION-Another 02-『TimeLimitation』 (以上、穂刈) 1日目 予選の裏で祭りめぐり 揃い始めた者たち (以上、神姫の父) ちっちゃい物研・鳳凰カップ編-02 戦うことを忘れた武装神姫-28 (けものや) 恋人達の午後・「予選の裏で祭りめぐり(神姫の父)」の後の話 審査員爆誕・お菓子作りコンテスト 審査速報・お菓子作りコンテスト 花乃二重奏・予選Iグループの第三回戦 ストライカー・予選Cグループの第四回戦 剛vs剛・予選Kグループの第四回戦 (以上、優柔不断な人(仮)) 上がる緞帳──あるいは初日その一 麗しき戦い──あるいは予選その一 前半/後半 誠意の返礼──あるいは初日その二 白鳥の乙女──あるいは予選その二 前編/中編/後編 熱気の坩堝──あるいは初日その三 前半/後半 (By 妄想の人) 鳳凰杯編 「二人のナイヴスロッテ」 鳳凰杯編 「武の花の咲く頃に」 (byぬえ) 徒然続く、そんな話。 番外節、そのいち。 徒然続く、そんな話。 番外節、そのに。 (By 碧鈴の持ち主) バレットエンジェル2 バレットエンジェル3 (幻の人) 鳳凰杯への挑戦 もうひとつの戦い (以上アールの人) EXECUTION-Another 03-『LeadingDancing』 EXECUTION-Another 04-『Silhouette of Tarot』 EXECUTION-Another 05-『TaxingDismantling』 EXECUTION-Another 06-『AbsoluteTruth』 (以上、穂刈) 2日目 アルティVS葉月 『策謀家』再び 弾丸と悪魔と準々決勝と 『表』と『裏』 『緑色のケルベロス』 『α』の鼓動 (以上、神姫の父) 熱き心魂──あるいは二日目その一 激烈なる拳──あるいは決勝その一 前編/中編/後編 折り返し──あるいは二日目その二 零より来る者──あるいは準々決勝 前編/中編/後編 (By 妄想の人) 鳳凰杯編 「器創、鬼奏、姫葬・・・即ち競う」 鳳凰杯編 「幽鬼と魔王」 (byぬえ) 鳳凰杯・激突!『剣の舞姫』VS『鋼帝』 鳳凰杯・悪魔の裁き (以上アールの人) 一回戦第五試合 激突!女の子?(凪版)(チアキ氏に校正して頂きました) (以上、優柔不断な人(仮)) バレットエンジェル4 騎士対弾丸 (幻の人) 注意!大会開催中に無許可のノミ屋が出没しています (うさぎなひと) 鳳凰杯篇その1? 鳳凰杯篇その2? 鳳凰杯篇その3? (byリンのマスター) EXECUTION-Another 07-『BackstageKnight』 EXECUTION-Another 08-『LastCard』 ―THE DEVIL EXECUTION-Another 08-『LastCard』―2 ―JUDGEMENT EXECUTION-Another 08-『LastCard』―3 ―THE WORLD EXECUTION-Another 08-『LastCard』―Fin ―WHEEL OF FORTUNE (以上、穂刈) そのほか(番外・企業チラシなど) ちっちゃいもの研・出展概要 ちっちゃい物研・商品案内-18? (けものや) EXECUTION-Another 01-『DefencePhoenix』 (以上、穂刈)